なぜ関西馬のほうが強い? 調教師が危惧する「美浦トレセン」の存亡

トップトレーナーの問題意識
大島 昭夫 プロフィール

これに対するJRAの回答は本書に紹介されていないので、おそらく梨のつぶてか、書面による回答がなかったのだろう。

110億円を巡る熾烈な争い

世界に比類なき馬券売り上げを誇るJRA競馬、それを支えるのは、開催日のメインレースとして行われる重賞競走、オープン特別競走だ。とりわけ重賞競走は、少ないときでもその日の馬券売り上げの30%、多いときは70%を占める。

 

今年10月19日の東京競馬の馬券売り上げ94億円のうち、11R富士ステークス(GⅢ)の馬券売り上げは36億円だ。同様に、

・10月20日の京都競馬235億円、11R菊花賞(GⅠ)162億円
・10月26日の京都競馬82億円、11Rスワンステークス(GⅡ)32億円
・10月27日の東京競馬311億円、11R天皇賞・秋(GⅠ)215億円

だった。上記4日間の馬券総売り上げ722億円のうち、メイン4レースの馬券売り上げは445億円を占めている。つまり、年間馬券売り上げの50%くらいは、メインレースの重賞競走、オープン特別競走が稼ぎだしていることになる。当然のことだが、オープン馬で行われる重賞競走、オープン特別競走の賞金は、その他のレースに比べたら高額だ。

JRA競馬は、年間3454レース前後行われ、総賞金およそ1100億円(調教師への進上金は10%だから110億円)の奪い合いをしている。

その主役は、賞金額が大きい重賞競走に出走するオープン馬だ。先述の通り2018年に勝利数で601勝の差がついたが、収得賞金184億円(調教師進上金18億4000万円)の差のほうが、美浦所属の調教師にとってはダメージが大きい。

重賞の67%を関西馬が勝利

リーディング5位(49勝)、6位(48勝)と、31位(26勝)、36位(25勝)の収得賞金がほぼ同じなのは、重賞勝利数によるもので、これを見れば厩舎経済を潤しているのは、総勝利数より重賞勝利数であることが歴然としている。

ちなみに2018年に行われた重賞競走は141レース、栗東所属馬95勝、美浦所属馬46勝だ。美浦所属の調教師が栗東所属の調教師の半分しかいないわけではなく、ともに100人前後だから、この結果はかなり深刻といえよう。

2019年10月27日現在、重賞競走、オープン特別に出走するオープン馬は、栗東トレセン所属350頭なのに対し、美浦トレセン所属172頭というのも、東西格差を象徴する数字だろう。

「美浦に栗東と同じ坂路を作ったからといって、現在の東西格差が一朝一夕に解消するものではない」と主張する国枝氏の真意は、「30年にわたり格差が格差を生み出した複合的な問題なので、競馬の主役を張るオープン馬は、ハード面を同じに整えたからといって、簡単に作り出せるものではない」という点にあるともいえる。

26年前の指摘

1989年から東西格差が付き始め、年々格差は広がるばかり。坂路調教をいち早く取り入れた戸山為夫調教師が、坂路の申し子と呼ばれたミホノブルボンで皐月賞、ダービー優勝、菊花賞2着という実績を上げたのが1992年。その年、美浦1351勝、栗東2048勝、勝利数で697勝差、収得賞金で143億円差になった。

1993年、美浦トレセンと栗東トレセンの格差の原因を明らかにしようと、私は出席者4人による座談会本『なぜ弱い関東馬』(ミデアム出版社)を刊行した。

[座談会出席者]
 原良馬(ソフトな語り口で人気の競馬解説者・元デイリースポーツ競馬担当記者)
 佐藤洋一郎(サンケイスポーツ競馬記者、厩舎取材により穴馬券的中多数)
 井上泰司(スポーツニッポン大阪本社競馬記者、いち早く坂路調教にスポットを当てた)
 西山茂行(東西に馬を預託するオーナーブリーダー。物言う馬主として著名)

4人の出席者全員が、東西格差は、美浦トレセンと栗東トレセンの調教施設の違いにより生じたものだが、そうしたハード面の問題とは別に、長年関東の風下に置かれてきた調教師、馬主をはじめとした関西競馬人が、新しい施設、制度を積極的に取り入れ、強い関東馬に挑戦する気持ちが旺盛なことも重要だと指摘している。

〝豪華メンバー〟の68%が関西馬

西山氏「JRAとしては、美浦、栗東という囲いをつくることによって、競馬の公正さが保たれているという発想ですから。関東馬が勝とうが、関西馬が勝とうが、大した問題ではないんですよ」

佐藤氏「現在の厩舎制度で成功しているから、JRAは変えるつもりはないんです。つまり売り上げが着実に伸びていて、経営上の失敗がないでしょう」

長年にわたり重賞競走の出走馬は、関東で行われるレースでも関西馬のほうが多い。東京競馬場で毎年開催される天皇賞・秋は、今年出走した16頭中10頭がGⅠ馬だったことから、〝豪華メンバー〟で行われると大きな注目を集めた。

その一方で、関西馬11頭に対し関東馬が5頭しかいなかったことは、話題にすらならなかった。

「長きにわたって東西格差を放置・容認しているJRAは、経営責任を調教師に押し付けているに過ぎない。だからこそ、一刻も早い東西の条件格差の是正が求められるわけだ」(国枝氏)

国枝調教師は、JRAに対して美浦トレセンの存亡を問いかけている。まさに『覚悟の競馬論』である。