なぜ関西馬のほうが強い? 調教師が危惧する「美浦トレセン」の存亡

トップトレーナーの問題意識
 

栗東にあって美浦にないもの

通算勝利数1470勝(2019年11月3日現在)とダントツの実績を誇る藤沢和雄調教師は、〝現役最強馬〟アーモンドアイを管理する国枝栄調教師の著書『覚悟の競馬論』(講談社現代新書)が発売されて間もなく、「私と問題意識を共有している国枝先生らしい本。競馬界の内部から物申すのは勇気がいることだが、正論だと思う」と語った(スポーツニッポン2019年10月24日)。

藤沢、国枝両氏は、美浦トレーニングセンター所属の横綱、大関とも称される調教師だ。美浦トレセンの成功者ともいえる二人の問題意識とは、いったい何なのか。

『覚悟の競馬論』の一番の読ませどころでもあるのだが、それは「東西格差をどう解消するか」(第5章)だろう。

1987年までは美浦トレセン(関東)のほうが栗東トレセン(関西)より優勢だった。1988年に美浦所属馬1634勝、栗東所属馬1678勝と、ほぼ拮抗し、翌1989年に、美浦1559.5勝、栗東1774.5勝(同着レースあり)と200勝以上の差がつき、その後も勝利数差は拡大し続けた。

その明暗を分けているもの――それは、栗東トレセンにあって美浦トレセンにない――坂路調教コースである。

遅きに失した改善策

急激な東西格差発生の最大の原因とされた坂路が1993年に美浦トレセンにできた4年後、それまで600勝以上あった勝利差数は339勝に縮小し、その後しばらく同程度の勝利差数で推移した。

しかし、美浦トレセンの坂路は栗東トレセンの坂路に比べてスケールが小さいためか、再び勝利差数は拡大した。2018年には601勝差、収得賞金は184億円もの差がついてしまった。

30年近くも続く東西格差を巡っては、JRAが2022~2023年までに美浦トレセンの坂路コースの高低差を栗東トレセン並にする予定だと昨年発表しているが、国枝氏は「遅きに失した。現在の東西格差は、格差が格差を生み出す複合的な問題にまで発展しており、坂路コースを改善したからといって、一朝一夕には解決しない」と主張している。

そもそも国枝氏は、『覚悟の競馬論』を上梓する13年前の2006年、東西格差を是正するためのさまざまな提案、要望、具体的な改善策をレポートとしてまとめJRAに提出している。

同書の第5章に収録されているそのレポートは、栗東トレセンと比較して、明らかに条件が劣る美浦トレセンで苦労する調教師ならではのものだ。