ベルリンの壁崩壊から30年、「東西ドイツ統一」は夢のままなのか

11月9日の「熱狂」と期待外れの現状
川口 マーン 惠美 プロフィール

10時半、コンサートが終わって外に出ると、世界は劇的に変わっていたという。どこを見ても、人と車の群れだった。その2時間の間に起こったのは、まさに奇跡ともいえる出来事だった。

まず、8時過ぎから、あちこちの検問所に数万の人々が詰め掛け、あっという間に「開けろ!開けろ!」の大合唱となった。

 

9時20分過ぎに、最初の検問所が群衆の圧力に屈した。何の命令も受けていない警備隊は途方にくれ、それでも最初のうちは、出国者の身分証明書に「無効」のスタンプを押していたという。

困り果てた彼らは、後で責任を問われたときのため、暴動の扇動者を追放したということで辻褄を合わせようとしたものと思われる。本来なら、無効のスタンプのついた身分証明で再入国はできない。

しかし、それもまもなく手に負えなくなり、ついに遮断機が上がった。そうするあいだに、他の検問所も次々と開放され、11時半ごろには、西ベルリンでは上を下への大騒動が始まっていた。

〔PHOTO〕gettyimages

この日の映像は、どれも感動的だ。西の大地を踏んだ途端、臆面もなく泣き出す大の男、感極まって地面に膝をつく青年、泣き笑いで顔をくしゃくしゃにしながら叫ぶカップル。そして、満面の笑みでそれを歓迎する西ベルリン市民。

どこを見ても、知らない人同士が抱き合って、笑ったり、泣いたりしていた。そこには、演技もなければ、抑制もない。お祭り騒ぎは、翌日も、翌々日も続いた。

〔PHOTO〕gettyimages

これ以後、大晦日までの7週間、人々の熱狂はますます激化していった。祖国の統一は、普段は何事に関しても少し冷めた見方をするドイツ人を豹変させた。自分たちが、歴史の渦中に、しかも主役として存在する高揚感で、彼らは皆、楽観的で寛大な平和主義者になっていた。