中国「教授拘束事件」の意味…内外の研究者に及ぶ管理・統制

関係「改善」とともに進む対日強硬策
川島 真 プロフィール

事件の重要性と波紋

今回の事件は日本の学界や言論界に大きな「衝撃」を与えた。それは必ずしも日本籍の研究者だからというのではない。日本国籍保持者は、中国で既に10名以上が拘束され、9名が起訴されている。また日本で教鞭をとる研究者ということなら、前述のようにすでに少なからぬ研究者が拘束されている。ではなぜそれほど大きな衝撃なのか。

 

第一に、拘束に至る経緯だ。この研究者は、空港などで何かしらの証拠が発見されて拘束されたのではなく、中国社会科学院近代史研究所が招聘し、その手配したホテルで拘束された。

社会科学院近代史研究所の関与は判然としないが、何かの行為を中国で行ったから拘束されたのではなくて、はじめから拘束するつもりで拘束した、計画的な拘束だと思われる点である。

第二に、専門である。

この研究者の専門は中国近現代史である。現代中国の政治や安全保障ではない。それも少数民族の独立に関わる歴史研究であるとか、中国が敏感にある宗教史の研究でもなく、日中戦争史の研究者なのである。

中国国内で民国史や抗日戦争史をめぐる問題が共産党史との関係で喧しいのは確かだ。中国が対外的に歴史戦を展開していることも広く知られる。だが、日本の歴史研究者を入国拒否ではなく、拘束したということは大きな要因だ。

第三に、当該研究者が国立大学の教員という準公務員だったこともあるかもしれない。

この研究者は、防衛省防衛研究所に勤務経験があり、外務省事務官を兼任していたこともある。その意味では純粋にアカデミズムの経歴を有する研究者ではないかもしれないが、現段階で国立大学の教員であったことは確かである。準公務員たる国立大学教員が拘束された前例はない。

この他にも要因があろうが、今回の事件は日本の学界、言論界に大きな衝撃を与え、少なからぬ研究者が訪中を断念し、幾つもの会議が延期、または中止された。

それは今回の拘束の理由が明確でなく、理由が属人的なことなのか、ある要件を備えていることによるのか、それとも不特定多数に適用されることなのかがわからない。

そのため、多くの研究者が訪中を危険視した。さらに、今回のことに関し、中国側に抗議の姿勢を示そうとする向きもある。

長期的に日中間の学術教育交流が停止することが望ましくないのは周知の通りである。だが、今後、当該研究者が無事に帰国しても、日中間の学術交流が「原状復帰」するのにどれだけの時間を要するかは未知数だ。