深海で日本海軍の空母発見!奇跡の生還者たちが語ったあの海戦の真実

今日、映画「ミッドウェー」が全米公開
神立 尚紀 プロフィール

「加賀」の士官室に残してきた春画の行方は

平成11(1999)年、アメリカの深海調査会社ノースティコスによる探査に同乗した、「加賀」の九七艦攻搭乗員・吉野治男が、

「心のなかでは、見つからないでほしいという気持ちもありました……」

と語ったことは、先に述べた通りである。吉野は、

「沈んでいる艦や飛行機はね、戦友たちが眠る海底の墓標なんですよ。一生懸命に探している人たちの姿勢に感銘は受けるけれども、できればそっとしておいてほしい、というのが偽らざる気持ちですね」

と言葉を継いだ。「加賀」が被弾したとき、艦橋近くにいて艦長の最期の声を聞いた九七艦攻搭乗員・森永隆義も、

「墓暴きはやめてほしい。もし見つかって、『加賀』が興味本位の見世物にされたんじゃたまらない」

と、探査の動きに否定的だった。これは、生き残った当事者の多くに共通する心情だったと言っていい。

 

このとき、探査の推移を日本で見守っていた元乗組員のなかに、「加賀」零戦隊指揮官として真珠湾攻撃に参加した志賀淑雄(当時大尉)がいる。

志賀は、支那事変(日中戦争)以来、歴戦の戦闘機乗りだったが、「加賀」の岡田艦長と反りが合わず、ミッドウェー海戦の直前、客船「橿原丸」を建造中に空母に改造し、完成したばかりの空母「隼鷹」飛行隊長に異動させられていた。華やかな第一線空母から客船改造空母への転勤は、「誰が見ても左遷」だったという。

「隼鷹」は、小型空母「龍驤」とともに第四航空戦隊を編成し、ミッドウェー島攻略の陽動作戦として行われた、北太平洋のアリューシャン作戦に参加、志賀は米アラスカ州のダッチハーバー空襲に、零戦隊を率いて参加している。

「6月5日、ダッチハーバー空襲を終えたところに電文が入り、分隊長以上にだけ、ミッドウェーの戦況が伝えられました。これはこんな田舎を攻撃してる場合じゃない。最初の報告ではまだ『飛龍』が生きていて、合流して敵機動部隊に反撃をかけるべく、南に針路をとったんですが、やがて『飛龍』もやられた、と。アリューシャン沖からミッドウェーまで、どんなに急いでも3日はかかるから、どのみち間に合いませんでしたが……」

平成11(1999)年、最初に「加賀」発見が報じられたさい、志賀は、私に次のように語っている。

「真珠湾攻撃に向かう途中、艦内の空気がピリピリしているのが肌で感じられて、少しでも緊張を和らげようと、私が描き溜めた春画を数十枚、士官室外側の通路に貼り出し、ちょっとした展覧会をやったんですよ。分隊長になると私室が与えられるので、毎晩、コツコツと描いていたんです。ええ、展示は大好評でした。

艦長に盾ついて『隼鷹』に左遷されたとき、それらの絵は全部、『加賀』の士官室に寄贈して置いてきたんですが、もし『加賀』が見つかって、探査の手が入って士官室からあれが出てきたらちょっと恥ずかしいな、と思ったりもしますね。たぶん火災で灰になってるでしょうが」

真珠湾攻撃で、空母「加賀」零戦隊を率いた志賀淑雄大尉(のち少佐)。ミッドウェー海戦のときは、陽動作戦の空母「隼鷹」に乗り、アリューシャン作戦に従事していた(右写真撮影/神立尚紀)

今回、「加賀」「赤城」の艦体を相次いで発見した、ポール・アレン氏が設立した財団の調査チームによると、「加賀」は水深5400メートル、「赤城」は水深5280メートルの海底に沈んでいるという。2隻合わせて1000名を超える戦死者が眠っていると考えれば、確かにこれらは、吉野治男や森永隆義が言うように、冒すべからざる巨大な墓標であるようにも思える。いっぽうで、当事者の多くがこの世を去り、戦争の記憶が薄れるなか、こうした遺物が見つかることは、戦争の惨禍を記憶にとどめる上で意味が大きい、との意見にも理がある。工業技術遺産としての価値を見出す向きもあるだろう。

調査チームは、発見した艦体の調査をさらに進め、周辺海域で他の沈没船などの探査も続けるという。同チームは今年7月、太平洋戦争末期の昭和19(1944)年10月にフィリピン・レイテ沖海戦で沈んだ重巡洋艦「摩耶」とみられる艦体の一部を発見、ほかにも戦艦「武蔵」「比叡」、英海軍の巡洋戦艦「フッド」、米空母「レキシントン」、米重巡「インディアナポリス」など、多くの艦艇を見つける成果を上げている。

人の、「知りたい、見たい」という欲求は誰にも止められないし、それこそが人類の進歩の根源だ。ミッドウェー海戦で沈んだ「蒼龍」「飛龍」、重巡「三隈」、米空母「ヨークタウン」の現状も、いずれ明らかになることだろう。これらを「海底の墓標」と捉えるか「歴史の記念碑」として捉えるかは、人それぞれの価値観に委ねるしかない。

折しも、同海戦を描いた映画「ミッドウェー」(原題・Midway)が、11月8日(日本時間9日)、全米で公開されたという。せめて77年前、太平洋で激戦を繰り広げ、いまも海底に眠る幾千もの命があることを思い、戦争の記憶を風化させないことが、ふたたび同じ過ちを繰り返さないことにつながると、前向きに受け止めたい。

原田要さん、志賀淑雄さん他、8人の元零戦搭乗員たちの貴重な証言を収録