田代まさし「覚せい剤で再逮捕」…薬物依存症の治療は失敗だったのか

まだ薬物との闘いに負けたわけではない
原田 隆之 プロフィール

ラプスとリラプス

依存症に治療において、1度の再使用のことをラプスと呼び、そこから連続使用に戻ってしまうことをリラプスと呼んで、厳密に区別をしている。先に述べたように、ラプスは現実的にしばしば起きるものであるが、そこからリラプスに陥ってしまうことを避けることが重要だからだ。

ラプスをしたとき、それを治療のなかで正直に告白できれば、何が原因でラプスにつながったのか、気持ちのゆるみ、生活の乱れ、危険な兆候はなかったのかなどについて、綿密に話し合うことができる。

治療のなかでは、薬物のことを思い出させる「引き金」を避けることと重要課題とするが、もしかすると十分にそれを避けることができていなかったのかもしれない。こうしたことについても話し合い、自分の弱点や周囲に潜んでいた落とし穴に気づき、次は同じ失敗を繰り返さないようにすることで、治療が深まるのである。

つまり、ラプスは治療を深めるチャンスであり、失敗を意味するのではない。

 

したがって、治療や自助グループにつながっている限りは、たとえ再使用が発覚したとしても、治療の継続を優先し、罰を猶予する仕組みこそが一番求められる。私は何よりもこの点を強く主張したい。

しかし、わが国の現行の制度はそうなっていない。再使用は「再犯」であり、逮捕され、おそらくは刑務所に入ることになってしまう。そうすると、治療や支援はそこで途切れてしまうし、薬物を断ち切るための努力を一緒に重ねてきた仲間との絆も切れてしまう。

何より、本人が「薬物をやめることなど所詮できないのだ」と悲観し、自暴自棄になってしまったり、無力感や絶望感を抱いてしまうことが一番怖い。

犯罪であることは否定しようのない事実であるが、厳しい罰だけでは薬物依存症の再発を抑制することはけっしてできない。それは数多くの研究が示している。

一方、継続的な治療には確実なエビデンスがある。何度かの失敗はあるかもしれないが、それを乗り越えながら治療を続けることで、断薬期間が延びてゆき、その人らしい人生を取り戻すことができる。

田代さんも、希望だけは捨てないでほしい。今回逮捕されたからといって、薬物との闘いに負けたわけではないし、闘いが終わったわけでもない。薬物との闘いは、らせん階段を上るようなものだ。らせんを回るとき、見かけ上は後退しているように見えることもある。しかし、後退はしても、確実に上には登っている。

田代さんも、今は後退したように感じられても、確実にらせん階段を上へと登っていたことを信じて、また新たな闘いをはじめてほしい。そして、それは一人の孤独な闘いではないことを忘れないでほしい。罪悪感や無力感に苛まれたときは、一緒に努力してきた仲間がいることをぜひ思い出してほしい。自助グループは、仲間を見捨てることはけっしてしないからだ。