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朝起きたら、寝床にアリの大群が沸いていた「キモい体験」

ぐるっと囲まれて…閲覧注意

こんにちは、高木です。皆様は家で寝ていて翌朝目覚めたとき、アリの大群に囲まれていたことはありますか? 私はあります――

新著の『僕と彼女の嘘つきなアルバム』をはじめ、年に1冊のペースで執筆を続ける作家の高木敦史さん。今でこそ仕事もやや安定軌道に乗り、貧乏暮らしからは脱出しましたが、その昔は誰も住みたがらない“おんぼろアパート”に居を構えていました――。デビュー前の食えない時期に起きた、高木敦史の「日常の事件簿」
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えっ、マジ?……

大学五年の春にそれまで住んでいた中野区野方から杉並区荻窪に引っ越しました。大学五年というのは留年したからで、留年したのは社会に出たくなかったからです。大学四年の頃に五年目の学費を稼ぐべくアルバイトをしまくり、無事留年に成功した私は一転、金欠に陥ったため家賃をだいぶ抑えたアパートに引っ越すことにしました。

荻窪駅から徒歩10分、当時で築20年くらいで家賃は五万円ほど。洗濯機も外置きで、名前も「○○荘」という木造二階建てのいわゆるボロアパートの一階の最奥の角部屋に、大学五年の春から30歳になった年まで、およそ九年間住んでおりました。

写真/google mapより

そのボロアパートでは自転車は盗まれるし、洗濯物も盗まれるし、上階の住人はよく床ドンしてくるし、庭は近所の小学生の秘密の裏道みたいなのになっていて、ときおり窓ガラスに何か当たるし、たまに友達を呼べば「高木さん、この部屋なんか水っぽいにおいがする……」と帰られる。空き巣に入られても何も盗られず出て行かれる。そんな家でしたが、しかし住めば都とは言ったもので、大抵のことでは驚かなくなっていました。

しかし、住み始めて三年くらい経った朝に、それはやって来ました。

 

目覚めて最初の違和感は「黒い点」でした。私は畳敷きの六畳間に布団を敷いて寝起きしており、その日も普通に目覚まし時計を止めて起き上がりました。起きた後でもう一度寝ようかと考えながらふと見ると、目覚まし時計のすぐ傍に黒い点が一つあることに気づきました。

糸くずにしては太く、ゴマ粒にしては細い。はて? 私は考えます。何かの埃かな。見えたからには捨てておくか。しかし拾おうとして手が止まります。なぜって、埃が動いたからです。

はて? 私は考えます。これ動くぞ。てことは虫か? このサイズはアリか? まあ、そんなこともあるだろう。見えたからには捨てておくか。そして抓んで、外に放り出そうと窓に目を向けます。その視線移動の最中に、黒い点が今抓んだ一つだけではないことに気づきました。

あれ? もう一匹いるぞ。いや待て、この量は一匹じゃないな。二匹? 三匹? もしや十匹? えっ、あ、やべっ——これ十匹じゃきかない。え? もっと視界を広げたらどうなるの? まさか二、三十匹いるんじゃ……いるっ、アリ、いるっ、あ、これもっといるな、ごじゅう? いや、ひゃく……。

視界拡大のたびに設定した「“アリが何匹いるか”の上限」が突破される事態に理解が追いつかず、ただ布団の周囲をぐるりと囲むように蠢いているアリたちの存在に圧倒されて暫し放心状態になりました。

部屋の間取りは、玄関を入るとまず三畳ほどのキッチンがあり、引き戸を隔てて私の寝ている六畳間があります。角部屋なので窓は二箇所、片方は掃き出し窓で裏庭に続いています。

その掃き出し窓に足を向けるようにして、尚且つ壁際に寄せて布団は敷かれており、その布団から眺める視界の床一面、アリの黒が畳の色褪せた白茶色と混ざってまだらになっている——そんな状態でした。しかも連中、畳どころか柱にもいるのが見えます。