人間を審査するAIの登場で「不正受給」はなくなるかもしれない

だが、それは本当に歓迎すべきなのか
小林 啓倫 プロフィール

監視カメラで道路横断を取り締まる中国

さて、こうした「不正」は、政府から違法にお金を手に入れるという形以外でも発生する。その逆に、政府に払うべきお金を払わないという不正もあるだろう。つまり違法行為による罰金の回避だ。

歩行者が決められた場所以外で道路を渡ったり、交通ルールを守らない形で横断したりすることを「ジェイウォーク」と呼ぶ。こうしたジェイウォークは、自動車社会が発展するにつれて各国で違法化され、罰金が科せられる場合もある。たとえばハワイでは、ジェイウォークした場合130ドルの罰金を支払わされることがあるそうだ。

とはいえあちこちの道路に警察官を立たせ、道路を横断しようとするあらゆる歩行者を監視するわけにはいかない。それに監視カメラとAIで対抗しようとしている国がある――ご想像の通り、中国だ。

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中国では既に、2億台近い監視カメラが街角に設置されており、そのうち1割のおよそ2000万台がネットワークに接続されていると言われる。そうしたネットワークに接続した監視カメラから得られた映像は、AIがリアルタイムで解析し、さまざまな情報を把握するために使われている。これが「天網」と呼ばれる中国の監視カメラネットワークだ。

中国政府はこの天網を、2020年までに中国全土に導入することを目指している。具体的な「成果」も生まれており、中国の有名歌手ジャッキー・チュン(張学友)のコンサートに押し掛けた大勢の観客の中から、複数の指名手配犯を発見・逮捕することに役立てられたと報じられている。

これをジェイウォーキングの取り締まりに活用するというわけだ。監視カメラの映像をAIが解析、ジェイウォークしているかどうかを把握し、さらにその人物の顔を認識することで、後日罰金などの措置を科すのである。また警告と見せしめの意味で、ジェイウォークした人の顔と名前を、街頭のテレビスクリーンに大写しにするという対応も行っている。これはある意味で、罰金以上に効果があるだろう。

ただこのシステムをめぐっては、ちょっとした事件も起きている。中国の著名な女性実業家、董明珠の顔が誤って「ジェイウォークした人」として認識され、それがスクリーン上に映し出されてしまったのである。その様子はすぐに中国のソーシャルネットワーク内で話題になり、当局はすぐに謝罪したが、董明珠は動揺せず「これは些細なことであり、交通の安全の方がより重要だ」とコメントしている。

 

このエラーが発生した理由は、彼女の顔を使った広告がバスの側面に掲げられており、そのバスが道路を横切ったところをAIが誤認識したためだった。笑い話のような結果だが、もしこれが多額の罰金を科せられたり、社会的により悪質だと見なされたりするような犯罪の認識であったら、笑っては済まされなかっただろう。人間の行動が一定のルールに従っているかを判断するAIの全自動化には、一定のリスクも潜んでいる。