人間を審査するAIの登場で「不正受給」はなくなるかもしれない

だが、それは本当に歓迎すべきなのか
小林 啓倫 プロフィール

農業補助金の不正を取り締まるエストニア

ところ変わって、国家全体のデジタル化を進めていることで注目を浴びるエストニア。当然ながらAIに政府内の業務を肩代わりさせることも積極的に進められており、先ほどの給付金申請の審査と同じような取り組みが既に実用化されている。

エストニアでAIが審査するのは、農業補助金の申請だ。同国では農家に対し、干し草を刈り取る際の費用に補助金を提供している。その規模は年間約2億ユーロ(およそ240億円)。当然ながらそれを受給するには申請が必要で、審査は人間の担当者が行っていた。その作業をAIに肩代わりさせようと、研究が2011年という早い段階から始まり、実証実験を経て2018年からシステムが稼働した。

干し草刈りは夏に行われるため、審査も同時期に行われるのだが、毎年5月から10月にかけて、農地を上空から撮影した衛星写真を欧州宇宙機関(ESA)から週単位で取得。その画像を解析するAIをディープラーニング技術を使って開発し、農家が申請通りに干し草刈りしたかどうかを確認しているのだ。

photo by iStock

人間が審査を担当していた際には、不正を防ぐには人間が現地まで行って刈り取り状況を確認しなければならず、それには大きなコストと時間がかかるため、補助金申請全体の5~6パーセントしか実地調査できていなかった。そのため不正受給が頻繁に起きていたそうである。

しかしAIと衛星画像を組み合わせたシステムであれば、どこでも瞬時に審査ができる。既に精度は85パーセントに達しており、現地調査が不要になったことで節約されるコストは、年間で66万5000ユーロ(およそ8000万円)に達するそうだ。

エストニアでは2020年の終わりまでに、こうした政府内でのAI活用事例を50件にまで拡大する予定だそうだ。一部の政府内業務が、完全にAIに置き換えられるという未来が、エストニアにいち早く到来するかもしれない。