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人間を審査するAIの登場で「不正受給」はなくなるかもしれない

だが、それは本当に歓迎すべきなのか

今年2019年は映画『マトリックス』の公開20周年にあたり、8月にはシリーズ最新作『マトリックス4(仮題)』の製作も決定された。実に四半世紀近く続く人気シリーズになったわけだが、その理由のひとつが、人間が機械に支配されるディストピアを描いている点だ。

「機械がその存在をまったく感じさせることなく、実際には人間を完全な統制下に置いている」という世界観は、公開当時大きな衝撃を与えた。

 

他にもさまざまなSF作品が、人間が機械に支配される恐怖を描いている。「ロボット」という言葉を生み出した、カレル・チャペックの戯曲『R.U.R.』も、機械による反乱と支配の物語だ。人間が自ら以外の知的な存在に支配されるというのは、多くの人々が恐怖を覚えるシチュエーションなのだろう。

しかしそれは、本当に歓迎されざることなのだろうか。実はすでに、人工知能の活用という形で、機械が人間を「支配」する状況が生まれようとしている。

イギリスで始まったAIによる福祉給付金の審査

英国ではいま、福祉と年金を管轄する行政機関である労働年金省(DWP)の下した決断が物議を醸している。彼らはこの1年半で、実に1000名ものITスタッフを雇って業務のデジタル化と自動化を進めているのだが、その一環として、福祉給付金の申請内容を評価するAIを開発しようとしているのである。

具体的に言うと、市民から保育費や住宅費に関する福祉給付金の申請があった場合、そこに書かれていることに嘘がないかどうかを判断するそうだ。既に申請プロセスの自動化が始まっており、16台のボット(ソフトウェア・ロボット)が導入され、従来は人間が担当していた業務を引き継いで申請者とのコミュニケーションを行っている。ここにディープラーニング技術を応用し、申請に不審な点が無いかチェックさせる計画となっている。

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誤解のないように言っておくと、こうした政府からの給付金において、不正が横行しているというわけではない。日本でも「こんな人が不正受給していた!」などという炎上事件がネット上で起きることがあるが、厚生労働省が2017年に全国厚生労働関係部局長会議で発表した資料によれば、2015年度に発生した生活保護に関する不正受給の件数は4万3938件、金額は約170億円だったそうである。170億円というと決して少なくない額だが、2015年度の生活保護費の総額は3兆7766億円で、割合で見れば約0.45%に過ぎない。大半が制度上認められている人々の手に届いているのである。

とはいえ人間は、公平性を重んじる生き物だ。いくら少額でも不正を黙って見過ごすわけにもいかず、審査には多くの人手が割かれている。そこでAIを使い、公平性を維持しつつ、より少ないコストで迅速に審査を行おうというわけである。

それは需給を受ける側にとってもメリットのある話だろう。DWPの広報担当者は、AIを含めた福祉業務全体の自動化によってサービス提供のスピードが上がり、担当者の業務が省力化されることで、本当にサポートを必要とする人々の対応ができるようになるとの見通しを示している。

ただこのAIがどのような根拠に基づいて受給の判断を行っているのか、詳細は不明だ。また機械学習の技術が使われているとされているものの、いったいどのようなデータに基づいてAIの学習が行われているのか、そうしたデータがどこから集められたのかも明かされていない。DWPはこれまで英国議会に対して、民間の信用調査機関や警察、資産評価局(VOA)といった組織・機関から情報を集めていることを報告しており、公的なものか私的なものかを問わず、幅広い情報源からデータ収集を行っているようだ。