中国龍王がオオカミと戦い化石を発見! 神秘のチベット恐竜物語

好評「恐竜大陸をゆく」西蔵編
安田 峰俊 プロフィール

チベットではフィールドワークの帰り道に同行者を見失って1人で道を歩いていたところをオオカミに出くわし、発掘用のハンマーを振るって防御しながら大声で歌(時代背景を考えれば革命歌だろう)を歌って威嚇。なんとか仲間に助け出されたこともあったという。

チベットオオカミ Photo by Getty Images

また、ある日の発掘現場では複数の隊員が重度の高山病になってダウン。ところがその後、新しく雇った現地の作業員と発掘を続けていたところ恐竜の牙の化石を発見したので、その場で大喜びで二鍋頭で乾杯したというエピソードもある。

なお、二鍋頭は中国で親しまれている蒸留酒であり、アルコール度は50%前後。高山で飲んでいい酒ではない。チベットで恐竜化石を掘り続けた趙喜進は、さまざまな意味で豪快な研究者だったようだ。

仏様の足跡だと思ったら恐竜の足跡だった

趙喜進が発見したモンコノサウルスとチャンドゥサウルスは、現代中国の恐竜研究黎明期の研究だけに、ちょっと残念な結果になっている。だが、彼は1993年に新疆で出土した獣脚類のモノロフォサウルス(Monolophosaurus:単冠龍)を報告するなど、他にも多数の恐竜化石を発見している優秀な古生物学者だ。

趙喜進は1995年に中国科学院を退職後、故郷にほど近い山東省諸城市の恐竜研究に協力。市内に作られた恐竜博物館の従業員たちから「じいちゃん(爺爺)」と呼ばれて親しまれる日々を送り、2012年に生涯を閉じた。晩年は中国恐竜学に大きく貢献した人物として、メディアから「中国龍王」の名で呼ばれていたという。

「中国龍王」の趙喜進(写真右) 「神秘的地球」より

いっぽう、かつて中国龍王が活躍した秘境の地・チベットの恐竜事情は、近年になり徐々に熱くなりつつある。

2000年代に入ってからは、現地の人々がチベット仏教ニンマ派の伝説的人物グル・リンポチェの足跡だと考えて拝んでいた岩盤の正体がジュラ紀の竜脚類の足跡化石だと判明。研究が進められるようになった。

チベットは政治的にたいへん難しい事情を抱えた地域だが、恐竜研究の分野では未知のフロンティアでもある。

マジュヌカティラインドの首都・ニューデリー市内にある亡命チベット人の居住地域、マジュヌカティラ(2014年12月17日安田撮影)
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【参考文献】
Susannah C.R.、 魏光飆 "A review of the Late Jurassic stegosaurs (Dinosauria, Stegosauria) from the People's Republic of China”
江山、彭光照、葉勇「中国剣竜類恐竜化石」
郝宝鞘、彭光照、秦鋼、葉勇、江山「中国剣龍類的発展史和演化」
神秘的地球「“中国龙王”赵喜进
邢立達「格萨尔王的足迹?揭秘昌都大脚印