私が文化庁の委員を辞めた理由

あいトリ「補助金不交付」の問題点
鷲田 めるろ プロフィール

ベルギーで見たもの

私は、10年前、ベルギーのゲント市にある現代美術館に半年間、籍を置かせてもらった。「社会彫刻」という概念を掲げ、美術と社会との関係を問うたヨーゼフ・ボイスなど政治的な作品も多く扱う美術館であった。美術館に入ると正面に黒い大きな受付カウンターがある。

ここに開館時からずっと受付を務めている、美術館の皆が信頼を寄せるスタッフがいた。彼は私に「美術館にはいろんなことを言ってくる人たちがいる。それから美術館を守ることが自分の仕事だ」と話してくれた。

 

次々と訪れる来館者に、いかにスムーズにわかりやすく施設案内や券種の説明を行うかという接客サービスの視点でしか美術館の受付を捉えていなかった自分を恥じた。

フォーラムとしての美術館を守ることは容易ではない。美術館のスタッフ全員が、そして、観客も、支援者も、政府も皆が、意思を持って、弛まぬ努力を続けて初めて可能になる。

鑑賞者が様々な作品の存在を知り、自分とは異なる考え方に触れ、考え、ものの見方を広げる機会を社会の中に確保しつづけるために、文化庁がすべきことは一体何だったのか。今回の不交付決定が異常だと思う感覚を決して麻痺させてはならない。