私が文化庁の委員を辞めた理由

あいトリ「補助金不交付」の問題点
鷲田 めるろ プロフィール

「フォーラム」への転換

今日、美術館は上から教育する「美の殿堂」から、市民が様々な価値観に触れ、考え方を交換できる「フォーラム」へと転換が図られている。

あいちトリエンナーレも、前回までは「普及・教育」と呼んでいたプログラムを「ラーニング」という名称に変えた。プログラム名の変更は、美術館は鑑賞者に特定の価値を教え込む場所ではなく、鑑賞者の相互的で自主的な「学び」を支援する場所であるという理念に基づいている。

今、国内外のアーティストたちがどのようなことを考え、どのような作品を作っているかを、政府の意向とは切り離して、鑑賞者に伝えること、そして、鑑賞者が様々な表現と向き合った上で、それに対して自由に自分の意見を表明し、交換できる場を作ることが美術館や芸術祭、キュレーターが果たすべき役割である。そのために、補助金を出す政府からは独立して展覧会は組み立てられなければならない

トリエンナーレは外部からの脅迫、大量の抗議電話を受け、開幕4日目から「表現の不自由展・その後」を中止した。その予測と安全対策が不十分であったことはトリエンナーレの責任である。そのことを反省し、万全の安全対策をとった上で10月8日に展示を再開した。

再開後の「表現の不自由展・その後」でのラーニングプログラムの様子。提供:あいちトリエンナーレ実行委員会事務局
 

再開後は、「表現の不自由展・その後」の鑑賞者同士でグループに分かれ、実際に見た感想を交換するラーニング・プログラムも毎日実施した。鑑賞者は冷静に、お互いの意見に耳を傾けていた。

補助金を採択した文化庁はトリエンナーレとともに、外部の脅迫から、鑑賞者が多様な作品に触れ、考える機会を守るべきであった。しかし、文化庁は反対に不交付を決定し、政府にとって不都合な作品は鑑賞者に見せるべきではないという姿勢を示した