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人類初の偉業達成!「世界最深の海底」をぜんぶ見た男、現る!

5大洋の最深部をわずか9ヵ月で制覇

特別視される「超深海」

地球表面の7割を覆う海──。浅いところもあれば、深いところもある。

世界の海でいちばん深いのは、西太平洋のグアム島近海、マリアナ海溝内にある深淵「チャレンジャー海淵」だ。

その最深部は、約1万900メートルの深さがある。世界の最高峰・エベレスト山の高さが8848メートルであるから、それをはるかにしのぐ、たいへんな深さである。

エベレストの高さよりはるかに深い「超深海」は人類最後の秘境だ。 Photo by iStock
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世界の海の深さは、平均すると3700~3800メートルほどだが、深さが6000メートルを超える深海は「超深海(Hadal Zone:ヘイダルゾーン)」とよばれ、特別視されている。その極みが、チャレンジャー海淵なのだ。

歩いてエベレストに登頂すること──それは、相当な体力や重装備が必要であるとはいえ、人類にとって不可能なことではない。事実、最初のエベレスト登頂が1953年になされて以降、2010年の時点で、すでに3000名以上が頂上を極めているのだから。

では、マリアナ海溝チャレンジャー海淵はどうか?

世界で最も深い海底に到達した人は、いったい何人いるのだろうか?

エベレスト登山とは別格の難しさ

山と海には、決定的な違いがある。

エベレスト登山者の身なりで、マリアナ海溝に行くことは不可能だ。人類はそもそも、海中で呼吸をすることができない。

スキューバダイビングのように空気ボンベを背負えば、呼吸はなんとかなる。海中では、深さ10メートルごとに1気圧ずつ、水圧が増していく。水圧にゆっくり体を慣らしていく「飽和潜水」という方法を使えば、数百メートルの深さまでなら潜ることが可能だ。

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しかし、それが限界だ。人間という動物は1万メートルはおろか、1000メートルの深さでさえ、生身の体では潜ることができない。

そこで、“乗り物”が必要になる。

1万メートルの深さでは、1000気圧の水圧がかかる。この巨大な水圧下でも潰れることのない、頑丈な球体(「耐圧殻」とよぶ)をつくればよい。

それは難事業だが、技術的に不可能ではない(もちろん、たいへんな費用がかかる)。海底のようすを肉眼で見るための観察窓をつけることもできる。

1960年に、ジャック・ピカール(Jacques Piccard、スイス人)とドン・ウォルシュ(Don Walsh、アメリカ人)の2名は、潜水船「トリエステ(Torieste)」号の耐圧殻の中に入り、世界で初めて、マリアナ海溝チャレンジャー海淵の海底(深さ1万912メートル)に到達した。

ジャック・ピカール(左から二人目)とドン・ウォルシュ(右から二人目) Photo by Getty Images
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それから52年後の2012年、カナダの映画監督ジェームズ・キャメロン(James Cameron)氏が、一人乗りの潜水船「ディープシー・チャレンジャー(Deepsea Challenger)」号でチャレンジャー海淵へ潜航し、世界で3人目の名乗りを上げた(最深点の深さ1万908メートル)。

世界で3人目となるチャレンジャー海淵への潜航に成功したジェームズ・キャメロン監督とディープシー・チャレンジャー号 Photo by Getty Images
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到達した人類はわずか3人だったが……!?

ぼくは講談社ブルーバックスから、『太平洋 その深層で起こっていること』を、2018年8月に出版させてもらい、太平洋の超深海に挑んだ人類の歴史や、超深海の科学について記述した。

そしてその中で、「マリアナ海溝チャレンジャー海淵に到達した人類は、まだ3名しかいない」と紹介した。しばらくは、この状況がつづくだろうと思っていた。

ところが最近、この記録があっさりと塗り替えられてしまったのである。