築地の「カラスの餌」が豊洲で「希少部位」に! 驚きのマグロ消費史

「中落ち」にみる水産業復活のヒント
川本 大吾 プロフィール

きめ細かく消費者に説明

豊洲市場直送のマグロを仕入れ、トロや赤身を切る際に出る端材の利用にもこだわりを持ち続ける森田さん。「マグロの命をいただいているという気持ちを大切にしたい。工夫すれば、おいしく食べられる部位が多いため、細かくお客さんに(調理法を)教えながら食べてもらっている」と話す。

 

器用な手先で、マグロの頭やさまざまな部位から、少しでも食べられそうな部分を切り出して、パック詰めにする。それを目当てにする常連客も少なくないため、店頭に陳列したらすぐに接客。歌うのと同じように、メリハリの利いた喋りで、追及した希少部位の可能性を分かりやすく説明する。

「マグロのカマは、塩焼きか煮付け。ホホ肉はステーキがお薦め。筋がある尾の身はカレーや空揚げ用にするといい。表面の黒っぽい皮は湯がいて千切りにし、酢みそで食べるとおいしいし、あぶってもいい。腹の薄皮はいいだしが出るから、お吸い物に最適」(森田さん)などと、客に丁寧に教える。値札にも簡単な説明を表記するなど、きめ細かい対応で人気となっており、マグロの有効利用に一役買っている。

千葉県浦安市の鮮魚店「泉銀」店頭には、多種類のマグロの部位が説明付きで並んでいる。
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希少部位も含めてマグロの魅力を知り尽くす魚のプロにとっては、中落ちや脳天などは決して珍しくないかもしれない。

だが、今、豊洲市場のほか中野区の若者向けの飲食店、さらに築地界隈でも希少部位が日の目を見るようになったのは、マグロだけでなく魚全体の消費が落ち込んでいることと無関係ではなさそうだ。

マグロの希少部位が日本の水産業を救う

かつてのように魚を味わわなくなった日本の食事情。「肉と比べて割高だから」「調理が面倒だから」「ごみが出るから」「調理法が難しいから」。その要因は数々挙げられているが、おいしいと分かっていれば、また食べたくなるのだろう。だが一度おいしいと知っても、調理法が分からなければ仕方がない。

景気が良く、マグロが飛ぶように売れたかつての築地市場では、マグロのプロの多くが希少部位をないがしろにしてきたといっていい。その結果、多くが消費者まで行き渡らなかったのだ。おいしさに加えて、食べ方に関する情報が魚市場で途切れてしまっていた。

旧築地市場の仲卸で切り分けられたマグロの赤身
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だがこれまで述べてきたように、今は違う。豊洲市場でも手間をかけて『端材⇒希少部位』を切り出し、調理や食べ方に関する情報を積極的に出すようになった。

豊洲の仲卸をよく見ると、希少部位を店頭に並べながらまるで小売店のように「刺し身、ステーキ、角煮用」などとプロを相手に用途まで書いた札を置いている店もある。中には「お通し用に」などと店での扱い方まで薦めている。

移転から1年以上が経過した豊洲では、移転前に掲げた水産物の取扱量が目標を大きく下回っており、「当面は量より質で勝負」(卸会社)と考え方を切り替える向きもある。

質とは何も高級魚だけをそろえることだけではない。マグロの希少部位のような売り方や薦め方もあるのではないか。つまり日本全体の魚消費低迷への打開策のヒントが、マグロの中落ちや脳天の扱いに隠されている。