「北朝鮮=飢餓の国」という図式を疑うべきこれだけの理由

稲刈り真っ只中の農村を回ってみたら
伊藤 孝司 プロフィール

農場での大改革

農地が限られている北朝鮮では、食糧生産は重要な課題である。

今回、稲刈り風景を撮影するため2ヵ所の協同農場へ行ったが、どちらも終了していた。そのため平安南道(ピョンアンナムド)南浦(ナムポ)市にある「青山(チョンサン)協同農場」へ連絡してもらったが、ここも終わったばかりだという。

ただ、そこへ向かう途中ではまだ稲刈りをしているだろうとのことで、平壌市から南西へ車を走らせる。南浦市までは「青年英雄道路」という片側4車線の高速道路がある。だがここを走っていては、農作業を間近で撮影することは出来ない。

そのため運転手の提案で、脇道を走ることになった。未舗装なのだが、手入れされているので大きく揺れることはない。ただその道を行き来する人にとっては、車が巻き上げる砂ぼこりが大変である。

「青山協同農場」内の文化会館ではちょうどこの日、地域の「機動芸術宣伝隊」が全国のコンクールで優勝したことを記念する公演が開かれていた。この宣伝隊は、田植え・草取り・稲刈りの時期などに農場を回り、屋外で歌と演奏をする。日焼けした農場員たちが、交代で会場へやってきた。

黄金色に輝く刈り取り前の水田を見つけて撮影ができた。そして、稲刈りが終わった水田には天日乾燥させるために稲穂が積み上げられ、乾燥の終わったものを大型トラクターで運び出している。

稲刈り風景など簡単に撮影できると思っていたが、実に手こずった。それは、この国の農業制度の改革が関係している。

2014年2月の「全国農業部門分組長大会」へ金正恩委員長が書簡を送り、「圃田(ほでん)担当責任制」の導入を宣言。「分配における平均主義は農場員の生産意欲を低下させる」として、労働に応じて分配での差別化をはかることが明確にされたのだ。

 

協同農場には作業班があり、その下に20~30人の分組がある。この分組において農場員に耕作地を割り振り、そこでの成績を評価して収穫物を分配するのである。この制度によって農場員たちの“やる気”は一気に高まった。

しかも、田植えや稲刈りなどの農作業を少しでも短期間に終わらせるための競争をしている。早く終われば、次の作業に取り掛かることができるからだ。稲刈りに合わせて取材日程を立てたつもりだったのに、どの農場も作業を一気に終わらせてしまったのだ。農作業中の人たちにインタビューしても、誰もがその手を止めようとしない。

家族が担当している水田へ入れるための堆肥を、自宅の庭で作っている家も多いという。この制度によって農場員の収入は「青山協同農場」では120%、黄海北道(ファンヘブクド)沙里院市(サリウォンシ)の「嵋谷(ミゴク)協同農場」は130%に増えたという。