「北朝鮮=飢餓の国」という図式を疑うべきこれだけの理由

稲刈り真っ只中の農村を回ってみたら
伊藤 孝司 プロフィール

豊かになった市民生活

北朝鮮は、平壌だけでなく地方都市でも歩道の幅が広いため、自転車専用レーンが増えた。ただ、そこをかなりの速度で走る電動自転車が急速に増えたため、気をつけていないとぶつかりそうになる。昨年からは、大型の電動三輪車をときどき見かけるようになった。

後部座席に2人座れるほど大きいが、エンジンで動かしていないので自転車と同じように歩道上を走行する。咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸興(ハムン)市でも走っていたので、この便利な移動手段が普及するのは間違いない。

個人宅を取材するために「未来科学者通り」へ行き、高層アパート群を歩きながら撮影。ここを車で通り抜けた時には分からなかったが、アパートの下ではたくさんの人たちが様々なことをしているのだ。

ベンチに腰掛けているお年寄りたち、手を組んで歩いている若い男女、完全な防具を付けてローラースケートをしている子どもたち、小型犬を連れて散歩している人たち……。

 

訪ねた大学教授の自宅には、ピアノや冷凍冷蔵庫があった。これは首都・平壌の最新アパートでの光景ではあるが、この国が緩やかではあれ経済発展を続けているのは確かだと感じた。

平壌市郊外の大城山(テソンサン)西麓にある「中央動物園」へも行ってみた。平日は先生に引率された小学生が多い。爬虫類館には恐竜の頭の双眼鏡があり、子どもたちに大人気だ。

スマホで子どもの写真を撮っていた母親に声をかけると「仕事の夫を残し、咸興から遊びに来た」とのこと。個人でも旅行は出来るが、面倒な移動の手続きもしてくれる旅行社に団体旅行を申し込む人が増えているという。

園内には動物ショーを見せる施設があり人気になっているのだが、今年5月に見ようとしたら入場を断られた。それは今も続いている。「外国人は動物ショーを動物虐待だと非難するから」というのが理由だ。

少し前まで撮影できたものが、次々と不可能になっている。今年7月に夜景を撮った「主体(チュチェ)思想塔」の展望台も、「見学は出来るが撮影は出来なくなった」というのだ。平壌市内の俯瞰撮影をするのに、これ以上の場所はないのだが……。

前回の訪朝取材時には撮影できたのだが…

展望台からは、2ヵ所の石炭火力発電所の煙突からの煙が見える。最近の撮影の際には、それが写らないようにと言われた。そのことが撮影禁止になった理由かと思って煙突を見たが、ほとんど煙は出ていなかった。ひょっとすると次々に押し寄せる中国人観光客が、写真を撮るためにいつまでも動かないからなのかも知れない。

市民たちがどのような食生活をしているのか取材したくて、何度か申請したものの許可が出ない。具体的な店名を挙げて交渉してもダメなのだ。それは、店側が拒否するからなのだという。

新しくできた商業施設でオープン直後は自由に撮影させてくれたところでも、今はまったく不可能になった。「店内で写真を撮った外国人が、帰国後に事実と異なる発表をする」という話が伝わるからだという。

そうした状況の中で、ある総菜売り場を何とか撮影することができた。食卓に欠かすことのできないキムチでさえ、工場で作られたものを買う時代である。総菜を店で買って帰る人も増えたという。

1日に数百人が買いに来るという。その場で購入して持ち帰る人だけでなく、温め直してもらって店内で食べる人もいる。ここの総菜はどれもおいしいので、2日続けて昼食を摂りに出かけた。