イギリスは本当に疲れている…「EU離脱問題」の現在と未来

最も有力なシナリオはこれだ!
笠原 敏彦 プロフィール

新離脱協定案の中身

最後に、ジョンソン首相の新離脱協定案にも触れておきたい。

新協定案のポイントは、与党・保守党内の強硬派が猛烈に反発していたアイルランド国境問題でのバックストップ条項が削除されたことである。

バックストップとは、英領北アイルランドとアイルランド共和国の間に物理的な国境検問を復活させないための保証策で、テリーザ・メイ前首相の旧協定案では国境検問なしに物流管理が可能となるまでイギリス全体がEUの関税同盟に留まると規定していた。

これに対し、新協定案の変更点を単純化すれば、「北アイルランドはイギリスの『関税領域』に留まるが、現実問題に対処するためEUの関税・経済ルールを適用する」というものだ。

要は、北アイルランドは経済面で事実上イギリスから切り離され、EUの関税同盟と単一市場に留まるということである。バックストップが暫定措置であったのに対し、これは恒久的な取り決めである。

そして、この取り決めの大枠は、EU側が交渉の初期で提案していたものなのである。

 

実際の運用では、イギリスがEUと協調して英本土から北アイルランドに「輸入」される物品、農産物などの検査を行うことを想定。関税差が生じた場合は、イギリスが北アイルランドの企業など輸入元に差額分を払い戻すという仕組みだ。

つまり、連合王国の国内に事実上の国境線を敷くに等しく、メイ前首相が「イギリスのいかなる首相も受け入れられない提案」だとして門前払いしていたものである。

合意なき離脱も解散総選挙も封じ込められて八方塞がりとなったジョンソン首相が大幅な譲歩を示し、回りまわって先祖返りしたような合意内容と言って良いだろう。

これが、「離脱協定案の再交渉はない」「バックストップの修正はない」と強気を装っていたEUが突如態度を変え、新たな合意が成立した経緯である。