3月、義足歩行を初めて一般公開する様子を取材する小沢氏(写真右奥) 撮影/森清
# 障害 # 乙武義足プロジェクト

『五体不満足』の編集者が語る「義足は乙武洋匡の障害者性を際立たせる」

それでもなぜ彼は義足で歩くのか

1998年に刊行された『五体不満足』は、単行本や文庫本など累計600万部のベストセラーとなっている。当時講談社に在籍していた担当編集者・小沢一郎氏は、2018年10月に定年退職となった。フリー編集者として初めて関わった作品が、義足プロジェクトについてまとめた『四肢奮迅』だった。

義足プロジェクトが発表された2018年11月、小沢氏は乙武氏とプロジェクトメンバーの取り組みを一冊にすべきだと感じた。それから毎週の義足歩行練習に立ち合い、打ち合わせを重ねて、本の刊行にこぎつけた。20年間で10冊以上の本を担当した小沢氏が、『四肢奮迅』を「どうしても出したい」と思ったのはなぜなのだろうか。小沢氏に寄稿してもらった。

写真右からエンジニアの遠藤謙氏、理学療法士の内田直生氏、乙武氏、デザイナーの小西哲哉氏、義肢装具士の沖野敦郎氏、マネジャーの北村公一氏。小沢氏はこのチームを追いかけた 撮影/森清

乙武洋匡氏が語る「なぜ義足歩行に挑むのか」はこちら

不倫騒動の後に書いた社内向けの原稿

3年前の秋、当時講談社の社員だった私は、定年退職者の集まりである社友会の会報編集部からベストセラー刊行の裏話を書いてほしいという依頼を受け、こんな原稿を書いた。

 

多くの著名人の不倫が暴かれた2016年でしたが、『五体不満足』を担当した私にとっていちばんの衝撃は、ベッキーでも桂文枝でも鳥越俊太郎でもなく、週刊新潮の「乙武クン5人との不倫」と題する記事だったことは、ご想像のとおりです。

乙武洋匡さんからは、たくさんの宝ものをいただいてきました。鈍感な私に、本を編む仕事、伝える仕事のすばらしさに気づかせてくれたのも、もちろん乙武さんでした。けれど、『五体不満足』が1998年秋に刊行された直後、私はけっこう悩んでいました。

単行本の累計発行部数480万部、1回の最多重版部数50万部。パブライン(紀伊國屋書店の全国での販売冊数)が1日に4000冊を超えたこともあり、数字の重圧に押しつぶされそうな毎日でした。まだ大学生だった乙武さんに対しても、ベストセラーの著者になったことがこれからの人生の負担になるのではと、不安でなりませんでした。

そのころのことです。毎朝、それこそ山のように届く読者の手紙のなかに、私が卒業した小学校からの大きな包みが混じっていました。封を切ると、在校生全員の感想文が。
「手も足もないのにカッコいいと思った」
「心のバリアフリーがたいせつなんですね」

伝わっている、心の底からそう思えた瞬間でした。
本が売れるのって、すばらしいことなんだ。悩んでなんかいたらバチが当たる。小さな後輩たちの作文に励まされながら、またひとつ、乙武さんから宝ものをもらったと感じました。

社友会入りを目前にした私の願いは、もう一度乙武さんと仕事をすることです。少しピンチの乙武さんに、最後にひとつぐらい、宝ものを手渡せればいいのですが。