避難勧告が出ているのに高齢の親が避難しない

夜になり、ごうごうと暴風雨が。そのとき、スマホに九州に住む弟からラインが入った。
「Aちゃんのお父さんが避難してくれなくて困っている。どうしよう」
Aちゃんは弟の妻。都内に実家がある。とうに避難勧告が出たため、義妹の80代の母親は早くに避難していた。だが、義妹と弟が電話でいくら説得しても、父親は「大丈夫だから」と避難してくれないという。

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近くなら説得に行ったが、義妹の実家までは車で2時間近くかかる。この状況では出られない。「Aちゃんのお父さんも、もう外には出ないほうがいいかもしれない」と伝えると、弟は「俺もそう思う。テレビで見ているけど、近くの堤防が決壊したらしい」と心配そうだ。義妹は泣いているようだ。

避難所に行かないと決めている自分が、「避難所に行ってほしいね」とラインをするのは気が引けた。「無事を祈っているよ」とだけ伝えた。

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そして。翌朝の東京は台風一過の快晴だった。しかしながら、Aちゃんの実家もわが家も無事でしたと言うのがためらわれるほど、少しずつ甚大な被害が明らかになってゆく。2019年10月25日現在で、86人が死亡、8人行方不明、71河川で決壊したという。

逃げ遅れた人の多くは、義妹の父親、そして私のように「大丈夫だろう」と思っていたのかもしれない。とにもかくにも、台風に対する感覚はそんなに変わらなかったと思う。単に住んでいた場所が違っただけだと感じる。

まだ被害の全容はつかめていないが、少しずつ「なぜ逃げ遅れたか」が明らかになってきた。

「猫がいたから逃げられなかった」という中学生の男の子の声には涙が出た。わが家同様にペット避難問題を抱えるお宅は少なくないと思う。
「命を失った人の半数は車の中に閉じ込められた」という話には胸がつぶれた。私もいざとなったら車でママ友のマンションへ行けばいいと思っていた。だが、この「いざ」をいつ、どうやって判断するのか

なかには「救助を求めたら、もうお宅のほうには行けないから自己責任で逃げてくださいと言われた」と涙ながらに振り返るご婦人もいた。この場面で「自己責任」という言葉を使ってしまうのかとあっけにとられた。