「もし転倒したら」

こんなに人から離れた位置に一人で立つのははじめてだった。もし転倒したらという恐怖心が頭をよぎる。のちにこの映像を見た人たちから、口をぎゅっと結び遠くを見て立つ私の姿を評して「凛々しい表情が格好よかった」という言葉をいただくことになるが、じつはこのとき、私は必死に恐怖と闘っていたのだ。

立ち姿の撮影は、何ごともなく終了した。いよいよ歩行測定だ。
 
身体を慣らすために、まずは北村の肩を借りて歩いた。その間もずっとカメラが追いかけてくる。右足、左足、右足、左足。ガシャッガシャッと重たい音をたてながら、数センチずつ前進していく。どれだけ汗をかいても目立たないようにと選んだ白いTシャツが、ものの5分で汗びっしょりになってしまう。

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練習を繰り返すうちに、最初は数歩でバランスを崩していたのが、少しずつ長い距離を歩けるようになってきた。歩行にリズムが出てきたのだ。「いいね」「いけるかも」という、まわりから聞こえてくる声にも背中を押された。
 
15分ほどで休憩になった。義足を外し、椅子に深く腰掛ける。

「もしかしたらいけるかもしれない。よい感触が残っているうちに、決めてしまおう」