日本の大手出版社に対する「戦争責任」追及、その知られざる実態

大衆は神である(74)
魚住 昭 プロフィール

ダイク発言の真意は?

本郷とダイクの間に、コミュニケーションギャップがあるのにお気づきになっただろうか。本郷は主婦之友社の「戦争中の責任」を認めたわけではない。むしろ、戦争中に祖国に協力するのは当然だと居直っているといったほうがいいだろう。

それなのにダイクは、主婦之友社が「戦争中の責任」を自発的に認めたと受け止めた。単なる勘違いなのか、それとも『主婦之友』廃刊を思い止まらせるための方便だったのだろうか。

私は後者の可能性が大きいと思う。部下のドン・ブラウン(同年4月、新聞課長バーコフが更迭された後、新聞課長代理に任命される)が残した記録によれば、このとき「ダイク准将は明らかに多くの読者を持つ雑誌を廃刊にする必要はないと理解」していたという。ダイクはハナから『主婦之友』の出版を継続させるつもりで本郷を呼んだのではないだろうか。

赤澤名誉教授も「CIEの係官の中でも主婦之友社に対する態度は分かれていたが、その対立する意見の上に立って局長のダイクは、出版界の自主的な戦争責任追及の動きを歓迎しつつ、出版社の解散や業務停止を命ずることまでは考えなかったようである」註(1)と述べている。

 

いずれにせよ、ダイク発言の波及効果は大きかった。本郷から伝え聞いた石川は、自分たちが信念をもって国家に協力したことをダイクが賞讃し、戦時中の行為を免罪したと思った。

そこに「戦犯七社」の共同歩調を求める省一らの働きかけが重なったのだろう。石川は出版協会の臨時総会2日前の1月22日、社員たちの前で『主婦之友』は廃刊しないと宣言した。

左翼系出版社に押されっぱなしだった「戦犯」各社の反撃の火の手はここから立ち上ったのである。ダイク発言が彼らの後ろ盾になったのは言うまでもない。