海への理解を深め、航海に役立つと言われる海底地形図。ですが、海底地形はいまだ未開拓分野で、全解明への道のりは遠いものです。X プライズ・プロジェクトを通して、海底地形解明への最前線を紹介します。

What is XPRIZE ?
賞金総額700万ドル、シェル石油がメインスポンサーを務める自律的海洋探査技術を競う国際コンペティション。3年間に及ぶコンペは世界22カ国から32チームが参戦し、高範囲の海底を無人で高速に高解像度でマッピングする技術を競う。「技術提案書審査」、ノルウェーのホルテンで行われる技術評価試験のラウンド1、さらに深い海底地形の測深が求められる、ギリシャのカラマタ沖での実海域試験ラウンド2の計3つのステージから成る。

女性メンバーたちの活躍も注目
海底地形解明プロジェクト

2019年9月18日、GEBCO-日本財団 Alumni TeamがXPRIZEでの優勝報告のため総理を表敬。左から3番目の女性がカロリーナさん。

「正確な海底の地形を把握することで、人類はより安全な航海を行うことができる」

モナコ公国のアルベール1世大公が世界の海底地形の解明の必要性を提唱したのが20世紀初頭。だが、技術が進歩した現代においても地球の海は、全体の20%以下しか地図化されていないというのが現状だ。

2016年、モナコ海洋博物館にて日本財団とGEBCO(大洋水深総図指導委員会)が共催した「未来の海底地形図についての国際フォーラム」には、専門家だけではなく、グーグル社やNASAなどの国際的な機関や大手企業が出席した。そこでは、モナコ公国アルベール2世大公が「人類の未来のため、海底地形図を正式に広げていくこと」を宣言し、日本財団会長の笹川陽平氏が「GEBCOと共同で、世界の海底地形の全容を2030年までに100%解明することを目指す」と表明した。

また、米国Xプライズ財団が「シェル・オーシャン・ディスカバリ Xプライズ」(以下、Xプライズ)の開催を発表。Xプライズとは、無人調査技術を用い、限られた時間内で4000mの深海域における海底探査技術を競う国際コンペティションのこと。各セクターが協力し、未開拓の海底地形の解明に挑もうと誓ったフォーラムは大盛況のうちに幕を閉じた。

さて、海底地形図の作成については、これまで世界で唯一公的に作成してきたGEBCO指導委員会が独自に進めてきたが、専門家の高齢化や不足に伴い、日本財団が2004年より海底地形図作成に携わる人材の育成をスタートしている。GEBCOと日本財団の共同研修プロジェクトは、15年間で合計40カ国、90人のフェローを輩出しており、卒業生たちは海への情熱と強い絆で団結し、世界各地で海底地形図の作成に心血を注いでいる。

このフェロー養成プログラムは、女性たちの活躍が目覚ましいことも特徴の一つである。2012~13年度の卒業生で、フェローの一人であるカロリーナ・ズウォラックさんは、ポーランド海軍兵学校講師。彼女はモナコの国際フォーラムには参加できなかったものの、後日Xプライズ・プロジェクトへの誘いがあり、参加を決めたという。コンペティションに参加するのは、日本をはじめ、欧米、アフリカなど、国を挙げての代表チームが主だが、カロリーナさんが所属した“GEBCO-NF Alumni Team”は、13ヵ国、16人の卒業生と6人のアドバイザーがコアとなり、22ヵ国70人を超えるメンバーが彼らを支えるという、多国籍のメンバーで構成されたチームであった。

「Xプライズは私が今まで参加した中で最大級のプロジェクトです。国を拠点にしていないので、ベースとなる場所がなく、ほぼリモートワークで行われました。膨大な数のスカイプ会議やEメールで仲間と密にコミュニケーションを取り合うのが日常でしたが、このリモートワークこそが、通常このようなプロジェクトに参加できない人々にも門戸を開いたと言えます。子を持つワーキングマザーでもある私は、自宅やオフィスのコンピューターから多くのタスクを実現できたこともまた、プロジェクトの参加を可能なものにしてくれました」

Karol Zwolak

一方、そのリモートワークで大きな課題となったのは「時差」。メンバーによっては、夜中に働くことや、忙しい時間帯と重ってしまったことも。そのため、世界中にいる仲間とのスカイプ会議の時間調整には苦労したという。

「それでも、スカイプ越しに仲間の様々な生活音が聞こえるのは面白かったですね。私の場合は、当時2歳だった娘がおとぎ話をせがむ声を全員が聞いています(笑)」

コンペティションでは、Xプライズが求めた基準である船の無人化や高解像度、高カバー率、海上での非常にタイトなタイムフレームでプロジェクトを個々に実現することはさほど難題ではなかったが、「すべての要件を同時に満たす」という条件が大きな課題となり、解決すべき技術問題は山積みだったという。限られた時間内に詳細な海底地形を取得するべく、カロリーナさんたちのチームが選んだのは、世界中の海底地図製作者や海軍に使われているHUGINシリーズの自律型無人潜水機(AUV)だった。水中で活動するAUVと無人の母船を組み合わせたものを今回の挑戦のために新たに開発し、時間を要するデータ処理も可能な限り自動化することに成功した。その結果、競技では他のチームをはるかに上回る成果を挙げ、見事に優勝を勝ち取ったのだ。

Bartlomiej Ciesielski

「勝利要因はチーム構成だったと思います。私たちは一つの国や組織の代表ではなく、各分野の専門知識を持ちながらも、情熱と目標を共有できた、多様性に富んだグループでした」

さらに今回、彼女が仲間と共に発見したのは、新たな海底地形だけではなく、海に生きる女性たちの未来でもあった。

「私は海軍軍人であると同時に、幸せな妻であり母親です。ポーランド海軍士官実習生の約3分の1は女性ですが、現在、全体の船員のうち女性が占めるのは約2%です。優秀な若い女性たちは、一体どこへいってしまったのでしょうか? 実際に女性が数ヵ月も海上で過ごしながら家庭を持ち、子育てをすることは不可能に近いかもしれません。けれども、それにより莫大な潜在的損失があるという面も認識しなければなりません。海底地形は、まだ未開拓の分野。今回のプロジェクトの成功から、海で働きたいと願う、有能な女性たちの未来が明るいものになると、私は信じています」

PROFILE
Karolina Zwolak カロリーナ・ズウォラック
1985年ポーランド北東部ビャウィストク生まれ。2005年ポーランド海軍士官学校の学生として同国海軍に入隊。現在は同校航行システム部門の責任者で、将来の当直士官たちの指導に当たる。技術に関する著書多数、GEBCO指導委員会のメンバー。

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Text:Akiko Fujino Edit:Chizuru Atsuta