テキストが詰まったかばんを背負って、大峙洞の塾街を歩く小学生

大学入試の準備は小5から!「超学歴社会」韓国の熾烈すぎる受験戦争

高1の数学を「先行学習」する小学5年生
韓国の教育熱の高さは世界的に有名だが、それは「超格差社会」の韓国において、学歴こそが激烈な競争社会を生き抜く力となるからだ。そのため韓国の親たちは、自分の子供を過酷な教育地獄に追い込んでいく。小学生から始まる受験戦争の驚くべき実態を、ソウル在住のジャーナリスト・金敬哲氏の近刊『韓国 行き過ぎた資本主義』から紹介する。

大学受験の準備は小5から!

ソウル市大峙洞(テチドン)に住む主婦のパク・ミンジュさんは、1年前の冬、同市麻浦区からここへ引っ越してきた。それは、大峙洞が有名学習塾の中心地であり、さらに名門高校が集まる「江南8学群」に属しているからだ。

そのミンジュさんの息子、ヒョンジュン君は現在大峙洞C小学校の5年生だ。ヒョンジュン君が通う小学校の前の道路は、下校時間が近づくと自動車で埋め尽くされる。学校から出てくる子供を拾って塾に連れていくため、母親たちの運転する車が待機しているのだ。ミンジュさんは言う。

 

「学習塾街までは歩いて15分くらいですが、ほとんどの子供は母親が車で送っています。1日に少なくても2〜3軒の塾を回るので、子供だけだと時間の管理が難しいんです。子供が塾で勉強している間、ママたちはカフェでおしゃべりしたりしながら時間をつぶします」

2012年、教育科学技術委員会所属の国会議員が、大峙洞の学習塾街を歩いていた小学生10人を対象にかばんの重さを測る実験をして話題を集めたことがある。その結果、10人のかばんの重さの平均は8・5キロだった。小学3年生の平均体重が約30キロなので、体重のおよそ3分の1のかばんを背負って塾から塾へ転々としていることになる。

数学塾や英語塾に通っているヒョンジュン君のかばんもかなり重かった。かばんの中には数学のテキストのほかに、TOEFLリーディング、TOEFL文法、TOEFL単語集など、TOEFL関連のテキストだけで3冊、それに『ハリー・ポッター』の英語の原書も入っていた。

ヒョンジュン君が通う英語塾では、毎日3時間ずつ、TOEFLとTEPS(ソウル大学が主管する英語能力試験)に向けた勉強だけでなく、小説やエッセイを原書で読んで発表、ディベート(討論)する授業も行っている。

ヒョンジュン君は英語塾が終わると近所で待っていたミンジュさんと合流し、20分で簡単に夕食を済ませた後、数学塾へ走っていく。数学の授業も3時間で、中学3年生用のテキストを使って行われる。つまり、小5が中3の授業を受けているということだ。

正規の学校教育課程より先に、塾や予備校などの私教育で学ぶことを韓国では「先行学習」というが、この「先行学習」こそが、大峙洞の学習塾の強みであると同時に、大きな問題があるとして批判される点でもある。

まず、学習塾の先行学習によって、公教育(学校教育)が崩壊しつつあることが指摘されている。学習塾で先行学習している生徒たちは、学校で厳しい先生の授業時間中は、聞いているふりをして塾の宿題を行い、寛大な先生の授業時間には、最初からあからさまに睡眠をとる。

授業中に寝ておいて、良いコンディションで塾の授業に臨むためだ。教室の雰囲気がこうだから、他の生徒たちも授業に集中することができない。教師のほうも、生徒はすでに先行学習で授業内容を知っていると考え、基本概念を十分に説明しようとしない。

また、子供たちの認知や感情などの発達段階や思考水準とかけ離れた「先行学習」は、逆に思考力や集中力、興味の低下などを引き起こし、表面的、機械的に問題を解く癖がついてしまう恐れがある。さらに、「先行学習」にかかる保護者らの経済的負担も深刻な社会問題となっている。