初めての「二足歩行」

そんな私のために登場したのが、「スタビライザー」と呼ばれる、姿勢を安定させるための補装具だった。
 
新聞半ページ大ぐらいの板の上に、太ももまですっぽり入るような筒状の器具がついている。私を抱きかかえた母が、ゆっくりとスタビライザーに私の両足を入れる。腰のベルトをぎゅっと締める。はじめのうちは不安げに上半身を揺すっていた私だが、だんだん慣れてくると、私も母も笑顔になった。クマのぬいぐるみを私に向ける母。それを見上げてニヤッと笑う私。その様子を見た母が、眉を下げて微笑み返す。
 
私が生まれてはじめて「立った」瞬間だ。

 
映像を見ながら、私はいつも裸に近い格好だったことに気づく。母に理由を尋ねると、「あなたはとても汗かきだったから、服を着ないで練習していたのよ」という答えが返ってきた。皮膚の表面積が少ないせいで、人よりも発汗量が多くなるという説明を医師から受けたこともあるが、いまでも汗かきであることは変わらない。それから、何かうまくできたときに浮かべる「やったぜ」と言わんばかりのドヤ顔が、いまもこのころも少しも変わっていないことも映像から確認できた。
 
その後スタビライザーは、「スタビー」と呼ばれる短い義足に切り替えられた。義足の根元の筒状のところに断端を挿入するのは変わらないが、スタビーは足先が靴のようになっていて、足を振り出せば歩ける構造をしている。だが、腹筋が弱い私には立ったままの状態でいることがむずかしく、とても足を振り出すことなどできなかった。すると、スタビーが改良された。身体をスタビーに固定させるためのコルセットを腰に巻き、足底をひと回り広くすることで、なんとか立つことができるようになった。

「スタビ―」と呼ばれる短い義足をつけての歩行練習風景 写真/『頑張れヒロくん―四肢欠損児3歳10ヶ月の記録―』(東京都補装具研究所小児切断プロジェクト)より

補装具研究所はなかなかのスパルタだ。立位が安定したと見るや、すぐに平行棒につかまりながら歩く練習が始まった。研究所の先生に腰のあたりを支えてもらいながら、短い腕を平行棒に乗せるようにして、一歩ずつゆっくりと歩いた。
 
1歳半にして、はじめての二足歩行である。大きくて平べったい足をカシャンカシャンと振り出す姿は、まるでおもちゃのロボットみたいだった。私は週に1回のペースで補装具研究所に通い、平行棒の助けを借りながら、足を交互に振り出す練習に励むことになった。

【第2位の発表と公開は明日11月3日(日)の予定です】

四肢奮迅』両手両足のない乙武洋匡が歩く!  2017年10月にスタートし現在進行中の「乙武義足プロジェクト」。その苦悩と歓喜を描いたノンフィクション作品です。
四肢奮迅』発売記念 乙武洋匡トークショー&サイン会開催!
本書発売を記念して、11月6日に乙武洋匡さんによるトークショー&サイン会を実施します。
日時:2019年11月6日(水) 19:00~
場所:八重洲ブックセンター本店(中央区八重洲2⁻5-1)
申し込みはこちらから→ https://www.yaesu-book.co.jp/events/talk/17080/

お問合せ:TEL:03-3274-4870 E-mail: ybc-ev@yaesu-book.co.jp