従来のレシピや食卓のあり方を見直す

時短ブームの話に戻る。

既成の価値観を見直し、時代に合った現実的な選択を、という声の一つが時短レシピにも反映されている。

実は時短レシピの中には、単に簡単な料理法を提案するだけにとどまらず、従来のレシピや食卓のあり方を見直す方法を提示するものが含まれている。それがブームの三つ目の要因だ。

土井氏の主張を超えて盛り上がった一汁一菜ブームは、品数をそろえることを良しとする従来の考え方の見直しを迫るものとなった。

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有元葉子氏は、タイトルの通り『レシピを見ないで作れるようになりましょう。』(SBクリエイティブ)と、自らの地位を揺るがしかねない大胆な主張を行っている。

同書は、調味料を計量して作る、あるいは手の込んだ料理を作るなどしてレシピに頼りっぱなしではよくない。それよりもまず、自分の感覚で簡単に調理しておいしい食卓を整えられるように、と基礎の技術を伝えようとするエッセイ集である。

また、有賀薫氏は『スープ・レッスン』(プレジデント社)その他のレシピ本で、肉やトマトなどの食材が持つうま味を利用する、食材に焦げ目をつけてその焦げ味を利用するなどして、手間がかかると思われがちな出汁を取らずに作るスープを提案している。それは、固形スープなどの既製の味に頼らず、食材が持つ味を引き出す工夫でもある。

その他にも、こねないパン、計量しないお菓子など、さまざまなレシピ本が、従来の当たり前を見直し、もっと簡単に作れる方法がある、と主張している。それは、この40年、料理研究家たちの間で共有され蓄積されてきた経験と知識が生み出した革新ともいえる。