一汁一菜ブームの功罪

二つ目の要因は、2016年にベテラン料理研究家の土井善晴氏が『一汁一菜でよいという提案』(グラフィック社)を出し、ベストセラーになったこと。

和食を得意とする父、土井勝氏の跡を継ぎ、正統派のきちんとした料理で定評のある料理研究家が、あえて自身の具だくさん味噌汁を例に時短を提案した同書のヒットにより、にわかに一汁一菜ブームが起こり、時短ブームは加速した。

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しかし、同書には問題もある。拙書『料理は女の義務ですか』(新潮新書)でも書いたが、「何品も作らなくていい」と提案する一方で、同書は味噌汁と漬物を礼賛し、多様化する食卓を土井が理想とする和食の世界に染め上げようとしている。

母性愛幻想も、透けて見える。「母親が台所で料理する気配を感じているのです。まさに料理は愛情です」といった表現から伝わる、「簡単でいい。だけど女性がちゃんと台所を守ってね」という主張のほうが、罪は大きい。それはすでに義務感を重荷に感じている女性たちに、さらにプレッシャーをかけかねない主張だからだ。

料理と愛情の関係を否定するわけではないが、食卓を担うのが母親であり妻であり、愛情を与える役割は女性が担うべきだ、という考え方は時代に逆行しており、実は今の時短トレンドとは真逆のベクトルを持つ。