ついに80代になってしまった。もう年貢の納め時とはいえ、今は囲碁と研究を趣味として楽しんでいる。いまだに電車の中で論文を読み、また思索にふけるのが悦楽の時である。

私が勝手気ままに好きな研究をやってこられたのは、よい先生、同僚に支えられたからである。また多くの弟子や後輩にも恵まれた。私が何かを教えたわけではないのに、好きなようにやってもらった結果、彼らが何かを学び取ったとすれば、大変な幸せである。
苦しい中に、「生き甲斐」がある
時代は動いている。かつての上昇期の熱気は去り、経済は混迷している。バブル経済の時代の身分不相応な繁栄の影を追ってはなるまい。若い研究者は、いまたいへんに困難な時代を生きている。しかし、これも人生である。
私も自分が若かったとき、いろいろと苦しんだ。苦しい中を生き抜くことにこそ、一度限りの人生の生き甲斐がある。
ついに傘寿を迎え、私は自分の趣味としてまだまだ研究を楽しみたいとは思っている。とはいえ、ここらで一段落と考えて好き勝手に風呂敷を広げたのが本書である。