文化勲章を受章した私が、83歳になっても研究を楽しめる理由

祝・甘利俊一氏受章!研究者人生を語る
先日、『脳・心・人工知能』の著者で理化学研究所・栄誉研究員の甘利俊一先生が文化勲章を受章されました!

「情報幾何学」という学問を創設され、現在のAI研究の基礎を築いた数理脳科学の第一人者でいらっしゃいます。そんな甘利先生に、文化勲章受章を受けた思いを込め、本書のあとがきに加筆いただきました。文化勲章受章を記念して、それをこのたび特別公開します!

83歳になられた現在も研究を楽しんで続けられ、ご活躍されている甘利先生の研究者人生とは──。

「不可能なこと」が可能になった時代

この度、図らずも文化勲章を受章する栄誉に浴した。親授式が皇居で行われ、陛下から授与された。受章の通知を受け取ったときは、わが耳を疑った。自分の好きな研究を勝手気ままにやってきた結果がこれであるから、誠に幸運としか言いようがない。そのような自由を私に許し、支えてくれた多くの皆さんのおかげである。

研究の合間に2016年にブルーバックスから上梓した『脳・心・人工知能』では、一数理工学者として、半世紀以上の研究の歴史を見据えながら、数理脳科学と人工知能、さらに心と文明について語ってきた。個人的な感慨を多く入れたため、独りよがりになったところも多いかもしれない。

あらためて振り返ると、私自身は、思いもかけない幸運の星の下に生まれたらしい。子供の頃は終戦直後で、餓えの記憶が強い。だから大変我慢強い。

千住東京都足立区(1947年撮影) Photo by Getty Images
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そのうち日本の経済が発展し、それまで不可能に思えたことが次々に可能になるという驚くべき経験をした。車を自分で運転することや外国へ行って見聞を広めることなど、ありえないと思っていた。

それが外国人と知り合い、会議や委員会で討論し、国際学会の会長まで務め、さらに自分の学問を創ることができたのだから、驚きである。これは、上昇期の日本という、歴史上類のない時代に生きたからである。

私は子供の頃から数学が好きだった。これを一生の仕事に選べたのは幸せだった。

70代になっても、研究は楽しい

20代は無我夢中の時代だった。本当の独創的な仕事は20代でしかできない、と気負ってもいた。30代に入れば視野が広がり、研究が充実して面白くなる。研究者としてもっとも活躍できる年代だと思った。脳のモデルを扱う数理脳科学の建設に熱中していく。

 

そして40代に入った。入ってみれば、いろいろと知識が広がり、まさに自分にとっての黄金時代である。この頃、数理脳科学だけでなく、情報幾何の創設へと幅を広げた。

そして50代である。まだまだ仕事はできる。自分独自の構想を持てば、若い人とも太刀打ちできると、自らを慰めた。60代に入り、定年を迎えると、人生を1回終えたような気がして、研究とともに、趣味の囲碁やテニスを楽しむ余裕が出てきた。でも研究はまだできるのである。独立成分分析など、新しいことを始めたのもこの時期である。そしていつの間にか70代に入ったが、やはり研究は楽しい。