「1匹ずつ」数えたデータから害虫分布図を作る「科学的農業」の現在

オープンデータが導く、日本農業の未来
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「これらを同時に実現するために必要なのは、農業のマネジメント戦略」と、澁澤特任教授は言う。

ちなみに農学を学ぶ学生には、植物の生育を応援したいという者のほか、経営への関心がモチベーションである者も多いのだそうだ。

無意味なデータは一つもない

一方、首都大学東京の大澤剛士准教授は、前所属先の農業環境技術研究所で、それまで表計算ソフトの表で公開されているだけだった国内の農地利用の統計情報を、標準規格である地域メッシュ地図データとして整備し、オープンデータとして公開した。

政府が持つ統計データなどの公開をめざす「オープンデータ」は、学術論文などの研究成果やデータの公開に関わる「オープンアクセス」と並んで、オープンサイエンスの主要な要素のひとつであり、大澤准教授はその利用価値に注目する。

「『その発想はなかった!』という他の研究を見つけると一番楽しいですね。その実例を小さいながらも自分で実践していくし、また教員として、学生にも自由な発想や方法を推奨していく」と大澤准教授(写真右) 拡大画像表示

「葉っぱの数を数えたり虫を捕まえて数を数えたり、自然をつぶさに観察して記録する活動は、博物学(Natural history)の重要な部分です。でも1人あるいは1研究室で取得できる数量には限りがある。一方、政府の調査データには全国を網羅するものもあり、はかり知れない利用価値があります。しかも税金で賄われたものなので、ぜひオープンにしてほしいですね」

誰でもアクセスでき、再利用・再配布できるようにすることによって、新しい利用価値が生み出すのが、オープンデータの大きな特徴だ。

「虫を数えている人たちは意識していないかもしれないけれど、再現性、検証性のあるファクトを数字として示したものである限り、1つとして無意味なデータはないと考えています」

データによっては、個人情報のように公開に注意を要するものもあるが、「たとえば専門家のみ公開というのでは、データの開放が不十分」と大澤准教授は指摘する。

 

「どういった条件下で取得されたデータであるかといった情報も含めて提供し、利用者責任で公開する。公共データについては、機械可読な形式でのオープン化を原則とするオープン・バイ・デフォルトであるべき」という大澤准教授の主張は、オープンデータに関わる世界的な認識とも合致する。

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大澤准教授はまた、公開した農地データを使って圃場の区画整備によって絶滅危惧植物の分布にどのような影響があるかをマップに描き出したり、イネの害虫として知られる斑点米カメムシが地球温暖化への応答と土地開発によって東北全域に分布拡大している実態を定量的に示したりといった研究を、縦横に展開する。

「科学的関心として、やはり一般に当てはまる現象やルールを見つけ出したい。そのためには、つぶさに観察する一方で、より広域なデータが必要になります」

オープンデータが農業を開放する

澁澤特任教授によれば、農地は耕作者によって小さく区切られているが、水や風などの環境要因を考えると数百〜数千ヘクタールが1つの単位となる。このため、たとえば有機農業なども、実際には地域全体で農薬をやめなければ実効しないという。