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「ものづくり」の限界を超えるカギ「データサイエンス」に入門しよう

データと数学がひらく、材料工学の未来
2017年、情報・システム研究機構は「統計数理研究所 ものづくりデータ科学研究センター」、「国立情報学研究所 システム設計数理国際研究センター」というものづくりにかかわる2つの施設を開設した。
データサイエンスや人工知能(AI)を採り入れて、ものづくりのあり方を変えようという国家レベルの成長戦略を踏まえたものだ。

進化を続けるコンピュータの計算能力やビッグデータの情報力を、日本が得意とする「ものづくり」の世界にどうしたらうまく結びつけることができるのか? ものづくりのイノベーションへ向けて産学が協働するフロンティアをお伝えしよう。

(聞き手:池谷瑠絵 特記以外の写真:飯島雄二 「サイエンスリポート」より転載)

データを使って、新しい材料を

統計数理研究所 ものづくりデータ科学研究センター長を務める吉田亮准教授は、学際領域におけるデータサイエンスのスペシャリストだ。

これまで生物等のさまざまな複雑な現象の解明に取り組んでいたが、近年は物質・材料に研究のターゲットを定める。

 

「マテリアルズ・インフォマティクス」と呼ばれるこの分野では、2011年にバラク・オバマ氏が主導した「マテリアルズ・ゲノム・イニシアチブ」以来、データサイエンスや人工知能の技術がもたらす製造業へのインパクトのゆくえが、世界的な注目を集めてきた。

「このグラフは有機太陽電池の性能を示しています。点の集まりは現在存在する物質を示しており、縦軸に示したパワー変換効率の最高性能は、今のところ約11%です。一方、グラフの右方、既存物質のデータが存在しない未踏領域がわれわれのターゲットです。われわれの仕事は、この位置に、現在の最高性能である11%を大きく上回る新しい性能・性質を持つ材料を発見することです」と吉田准教授は言う。

有機太陽電池の新材料の探索結果。グラフ右の黒点のない場所に欲しい機能を示す四角形が描かれている
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「材料科学は今まで、長年の研究の積み重ねによって物質の分布をゆっくりと拡大していましたが、われわれは今、データサイエンスの最先端の技術を駆使することで、この分布を一気に拡大させることができるんですね。これが科学や産業を加速させると考えられる理由です」

データサイエンスの本質は、「データを集め、データが持つパターンを機械に読み取らせ、認識させること」だと、吉田准教授は言う。

「理論は要らないんです。データの中に暗黙に入っているパターンや理論を解析によってあぶり出していく。そして読み解いたパターンの『逆問題』を解くことで、所望の機能に必要な構造を持つ仮想物質を、コンピュータの中に作り出すことができます。これを材料の研究者に提案し、実際に作れれば、新材料の発見につながります」

データサイエンスの「限界」を超えろ

一方、データサイエンスはどのくらい科学の発達に貢献してきたのだろうか?

「少なくとも、これまでの私の研究では、せいぜい5〜10%程度ではないでしょうか。歴史を振り返っても、科学技術の頂点はいつの時代も実験か理論であって、データサイエンスがノーベル賞級の大発見に決定的な役割を果たした事例は今のところない」

吉田亮 准教授
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「近年のデータサイエンスの変化の1つは、たとえば機械が画像や音楽を生成したり、アニメのキャラクターをデザインしたりというように、創造的な問題を解く方向へパラダイムシフトしていることです」