2019.10.29
# 政治政策

「八ッ場ダムが洪水を防いだ」という主張は、こんなにも危うい

この洪水で八ッ場ダムの実力は測れない
梶原 健嗣 プロフィール

そうするとどうなるか。今回の八ッ場ダムは、試験湛水中であったため、ダムからの放流がわずか4㎥/sで、最大2500㎥/sの洪水を受け入れた(参考:図2)。ほぼ全量を溜めこんだ形である。

しかし、本来はそうではない。八ッ場ダムの洪水調節計画は、想定洪水(ダム湖に流入する量)は最大で3000㎥/sに達し(計画高水流量)、一方の放流は、最初は200㎥/s、最後は1000㎥/sにとどめるというものである(参考:図3)。

事態が切迫した「緊急放流」時はこの原則から外れ、流入量と流出量を等しくさせるので、放流量は大きく増大する。より高い位置から一気に放流する洪水が加わり、ダム下流の水位は一気に上がる。

サイレン、防災無線などで緊急放流を通知するとしても、豪雨のなかであれば、それが十分に周知されないこともあり得る。そうした危険性を孕む緊急放流を、余儀なくされたはずの洪水だったのに、今回はたまたま試験湛水だったため、そうならずに済んだだけである。この点は、正しく認識しなければならないと思う(注2)

なおこの点について、洪水の発生が見込まれる場合に事前に放流を行って,「空き」を大きくしておけばいいではないか、という疑問を持たれるかもしれない。ここでは字数の関係で詳しく触れられないが、そうした「空き」を作ることは利水容量を侵害することになる。

これが洪水期であれ、貴重な利水容量を失うことにつながりかねず、事前放流は大きなギャンブルになる場合もある。事前放流は、ある程度早めに行わなければ下流の水位上昇につながるが、そういう時期は洪水の影響が不確実である。法の不備で現場に困難を強いているのが現状で、補償制度などを整備しなければ。容易に事前放流はできない。

 

「前の洪水は大丈夫だったから」という油断

(2)洪水体験の両義性

問題点の最後として、ダムの実力を見誤ることが洪水への「正しい恐れ」を欠如させ、適切な避難行動の妨げとなりうることがあげられる。

これまでとは異質な豪雨・洪水が頻発化するなかで、適切な避難の重要性は一層強く認識されるようになってきた。

そのための課題はいくつかあるが、どうすれば人々は避難行動を開始するかが出発点にして、最大の課題である。2001年の水防法改正以来、急速に普及したハザードマップを周知徹底することも重要な課題と言われる。

ハザードマップの表記においても、想定浸水高だけではなく想定流速を知らせることが重要という指摘もある。避難先で心身の健康を保持できるよう、避難所の抜本的な改善を図る必要もある。様々な課題が指摘されるが、過去の洪水体験も大きな要素だと言われる。

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