立派な父親に憧れた男が、娘を凄まじい「虐待死」に追い込むまで

目黒女児虐待死事件の「真相」(3)
石井 光太 プロフィール

「パパのいないところに行きたい」

2月になってすぐ、優里にとってショッキングな出来事が起こる。

雄大は結愛ちゃんに時計の読み方の勉強を指示した。だが、結愛ちゃんは言うことを聞かず、布団を引っ張り出して寝てしまった。雄大は激怒し、彼女を浴室につれていって顔面を殴りつけ、さらに、シャワーで冷水を浴びせかけたのである。

優里は別の部屋で息子に授乳させている最中にそれを目撃したが、恐ろしくて何も言うことができなかった。

翌日、結愛ちゃんの目のあたりが青くなって大きく腫れていた。雄大はそれを見て「ボクサーみたいだな」とつぶやいた。優里が「(暴力を振るうのは)止めて」と言うと、雄大は「わかった」とだけ答えた。目のアザは、その後もアザとなって残りつづけた。

結愛ちゃんは優里にこう言う。

「パパのいないところに行きたい」

 

優里は「頑張ろう」と答えたものの、心は揺らいでいた。東京へ来れば何かも変わると考えていたのに、現実は香川での生活と何一つ変わらない。それどころか、実家や友人と離れてしまった分、孤立していた。

傷害事件の日から3、4日後、優里は思い切って雄大に言った。

「離婚したい。結愛と二人で暮らしたい」

雄大が家族を一度に全員失うのを嫌がることは自明だった。ならば、結愛ちゃんだけでもつれて実家のある香川へもどりたいと言ったのだ。

雄大はその場にいた息子に目をやり、厭味ったらしく言った。

「お前は母親に捨てられたんだな。かわいそうだな」

雄大はさらにこう言った。

「離婚なんてヤクザみたいなこと言うな。おまえは苦しさから逃げているだけだ。おまえに(結愛ちゃんの)育児はできない。これから俺がする」

そして、この日から雄大が結愛ちゃんのことを見るようになり、優里は息子と過ごすことになったのだ。ここから結愛ちゃんにとって最後の1ヵ月が幕を開けるのである。