立派な父親に憧れた男が、娘を凄まじい「虐待死」に追い込むまで

目黒女児虐待死事件の「真相」(3)
石井 光太 プロフィール

どんどん精神的に追いつめられ…

東京に来るにあたって、雄大はかつて世田谷のダイニングバーで知り合った人間に仕事を紹介してもらう手はずになっていた。連載第2回で書いたように、芸能関係の仕事を紹介してくれるという話だったのだ。

雄大はそれを当てにして東京にやってきてダイニングバーに近い目黒区に家を借りたのに、肝心の仕事を紹介してもらえなかった。知人に悪意があったのかはわからないが、少なくとも雄大にしてみれば梯子を外された状態になったのだ。

雄大が仕事を辞めてか2ヵ月目になっており、引っ越しでも多額の費用がかかっていたことからすれば、貯金はほとんどなかったと思われる。彼は慌てて別の仕事を探しはじめていたが、なかなか見つからなかった。そんな時に、妻と子供二人がやってきて一家を養わなければならなくなっていたのだ。雄大が小さなことで怒りを爆発させるほど焦燥感にかられていたことは想像に難くない。

 

東京に暮らす高校時代からの友人は語る。

「雄大は東京に来てから事件を起こすまでずっと無職でしたが、友達から誘われれば普通に会って遊んでました。競馬、バスケのゲーム、飲み会などですかね。とはいっても、雄大は金づかいが荒いタイプじゃありません。むしろ牛丼を食べてから合コンへ行くくらいの節約家です。彼が金がないのに遊びに付き合ったのは、プライドがあったからだと思います。彼は昔からプライドが高いので、友人に誘われても『金がないからムリ』とは絶対に言えない。だから普通に金のあるふりをして付き合っていた。俺もそれをわかっていたから金のことは訊くに訊けませんでした」

雄大は金に困っていたにもかかわらず、プライドの高さから友人や家族に相談することができなかった。しかし、貯金はどんどん減っていき、4月からは結愛ちゃんを小学校に通わせなければならない。そうした状況が雄大の精神を追いつめ、今まで以上に余裕を失わせていた可能性は高い。

雄大はその焦りからか、就職活動の邪魔になるので息子をパソコンの傍に近づかせるなと言って、日中は優里に長男を連れて外出するように命じる。一方で、ハイムに残った彼はパソコンで職を探しながら、結愛ちゃんのしつけをすることになった。

この環境が、さらに状況を悪化させる。雄大は密室の中で思うようにいかないいら立ちをぶつけるように結愛ちゃんに次々と無理難題を押し付ける。

「朝4時に目覚ましをかけて自分で起きる」「息が苦しくなるまで運動をする」「九九を覚える」「『アメニモマケズ』の詩を暗記する」「16時には風呂掃除をする」……。密室で二人でいる時間が長かったために、より多くのことを強いることになったのだろうが、5歳の女の子にとっては虐待以外の何物でもなかった。