2019.11.02
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江國香織が驚愕! 片岡義男の「言葉をあやつる」凄いテクニック

小説の書き方「超入門」前編
片岡義男×江國香織×佐々木敦

「正解」の言葉を探して

片岡「接近」という言葉を使った時は、多少考えた記憶がありますね。鉄火巻きを斜めに皿の醬油に近づける、その動作を何と言えば良いのか。醬油を付けるわけではない。醬油の皿に向かって鉄火巻きをどうするのか。

江國:これを読んだ人の少なくとも一部は、これから海苔巻きを食べるたびに、「接近」って思うんじゃないかな。それって、ささやかですが大きいことであって、お寿司を食べるうえでの自分の人生に「接近」という言葉が加わってしまうわけですよね。

これからは醤油をつける動作をするたび、「接近」以外の何者でもなくなってしまう。書く時に考えてそれを選び取るというか、その言葉のほうがむしろ片岡さんに接近してきたに違いない。

片岡義男さんと江國香織さん (C)VOYAGER

片岡:そう、「接近」しかないんです。色々考えて言葉の候補が上がったわけではなくて、何と言えば良いのかなという空白状態が続いて、その空白状態の中に「接近」という言葉がある時に浮かんで、それをそのまま使ったわけです。言葉は不便ですよ。「接近」としか言えないのですから。

江國:いま新たにちょっと驚いたのは、「接近しかないんです」っておっしゃったこと。「接近だと思ったんです」でもなく、「接近がいいかな」とかでもなく、「接近しかないんです」っていう。

もちろん言い換えることは可能だけれども正解というものがあるはずなんですよね、言葉には。その正解を探すこと、見つけることが、私も書いていて楽しいんです。

 

佐々木:江國さんも、ストーリーの進行からしたら細部に属することかもしれないけれど、どの言葉を使うのかですごく悩むということがしばしばあったりするんですか?

江國:ありますね。やっぱり私も自分にとっての正解を諦めたくないので。私の場合は悩むというより、どこかに正解があるはずだと思って、手探りで書いている感じがあります。

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