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渋野日向子、あの驚くべき「心の強さ」はいったい何なのか…?

スポーツ選手の「メンタル」の研究

スポーツ界には、ここ一番というところで劇的な勝利をもぎ取る選手がいる。彼らはときに、運命すら変えてしまうような気迫と集中力を見せる。いったい、あれはいかにして身につくものなのだろうか。

14m先に沈める胆力

「最終日を前にして8打差があったところからの大逆転優勝、地元もみんなびっくりしています。ひなちゃんはここ一番で力を発揮する子だけど、あそこまでとは……。恐れ入りました」(高校3年生まで渋野にゴルフを指導していた佐藤純氏)

恩師が舌を巻くほどの劇的な逆転Vだった。

9月22日、愛知県で開催されたデサントレディース東海クラシックの最終日、16番ホールのパー3。

左のラフからチップインバーディを決め、単独首位に躍り出た瞬間、渋野日向子(20歳)はトレードマークの満面の笑みを浮かべて、ガッツポーズを作った。

ラフから目標のピンまではゆうに14mはあった。ただでさえ沈めるのが難しい距離のうえに、少しでも欲が出れば、逆転優勝が頭をよぎり、手元が狂う。

そんな大一番でも集中を切らさず、正確なショットを繰り出せる渋野の「心の強さ」はいったい、いつ頃養われたのだろうか。

「スマイルの印象が強いので、もともとメンタルが強い子だと思われますが、決してそんなことはありませんでした。むしろ、高校時代は常に大会の優勝候補だったのに、ここ一番で力が発揮できずなかなか勝てなかった。

プレー中に喜怒哀楽が出やすく、不甲斐ないと試合中に泣き出したり、投げやりになってしまったり。変わったのは、一度プロテストに落ちてからではないでしょうか。

いまもついている青木(翔)コーチのもとに通い詰め、一日何百球も打ち込んだ。挫折と、それを圧倒的な練習量で乗り越えた経験が、ひなちゃんを強くしたのではないかと思います」(前出・佐藤氏)

ゴルフに限らず、スポーツにはチャンスやピンチで精神力を試される場面が幾度となく訪れる。

圧倒的に格上の相手に勝たなければいけない。望みをつなぐためには大逆転をするしかない。そんな「究極の場面」で緊張やストレスに負けない心をどうやって作り上げるか。

そうした精神力を鍛える手段として、近年もてはやされるようになったのが、メンタルトレーニングだ。

イメージトレーニングやリラクゼーションなどの理論を駆使して集中力を極限まで高め、緊張と興奮が絶妙に混じり合う「ゾーン」へと自分自身を誘う。

 

苦悩の先に答えがある

現代のスポーツにおいては、手っ取り早く強くなるため、多くの競技で採用されている手法だ。しかし、勝利を左右するような土壇場でも本当に役に立つかというと、疑問符がつく。

「不思議なことに、メンタルトレーニングに頼りすぎる選手は、肝心の大一番でなかなか結果を出せない場合が多いのです。

コーチの言うことに忠実にプレーすることができるから平均以上の優秀な選手ではいられるのですが、なぜかあともう一歩のところから抜け出すことができません。

逆に、どの競技にも特別なメンタルトレーニングをしなくてもトップを維持できている選手がいます。

たとえば、野球のメジャーリーグで一流の成績を挙げたイチロー選手(マリナーズ会長付特別補佐)やダルビッシュ有選手(カブス)がなにかメンタルに特化したトレーニングをしているかというと、別にそうではない」(スポーツ心理学者で追手門学院大学特別顧問の児玉光雄氏)