豊潤な自然の恵みを享受しながら人々が営んできた暮らしと、大切につくり継いできた道具と。秋田が生んだ暮らしの道具、その物語。「かば細工」と聞いて、ピンとくる方はどのくらいいるだろうか。秋田の伝統工芸のひとつで、秋田の家庭で使われている茶筒の多くは、この「かば細工」のものが多いと思われる。そんな「かば細工」の老舗店の手しごとをお伝えします。

「伝統の技術と柔軟な発想
そのどちらもが必要」
かば細工

地域の伝統的工芸品に地域の老舗自らが革命を起こした。けれどもそれは、歴史の否定ではない。あくまでも伝統にのっとったニュースタンダードだ。

武士か、山伏か?

両親と妻、家族4人でかば細工に携わる西宮誠さん。

かば細工の正確な起源はわかっていない。カバではなく、ヤマザクラの樹皮でできているという意外で基本的なかば細工の事実を知っているならば、江戸時代、秋田藩の指導のもとに武士の手内職として始まったとする定説は理の当然と思うだろう。角館の観光名所である武家屋敷と桜並木に、あまりにも直接つながるからだ。でも、その前に武士につくり方を教えた者がいるはずだ。それは誰だったのだろう?

やはりかば細工職人である西宮さんの父が山で剥いできた樹皮が材料。最低でも1年間乾燥させてやっと使えるようになる。

一説には、かば細工は元来、山伏に伝承されてきた一子相伝の技法だったらしい。“マタギ”の名は“マタハギ(木の皮を剥ぐ人)”に由来するという説もあることからもわかるとおり、樹皮を利用した手しごとは、山を生活の場とし、木を知り尽くしている人から生まれるのがいかにも自然なことのように思える。

ともあれ、かば細工は1976年、通産省(現経済産業省)の伝統的工芸品として秋田県で初の指定を受けて以降、角館独自の伝統工芸品として確固たる地位を築いている。

「伝統は革新である」を実践

巻き終わりは、くさびの要領で両サイドを互い違いに引っかけて留める。繊細な仕事!

秋田県内の一般家庭で使われている茶筒は、かなりの確率でかば細工なのではないだろうか。それほど地域に根ざした民芸品に、藤木伝四郎商店が「輪筒」という新風を巻き起こしたのは2011年のこと。

藤木伝四郎商店は、1851年創業のかば細工のブランド。かば細工で最も知られた老舗にもかかわらず、そのステータスにあぐらをかくことなく、伝統は革新であることをモットーに新商品を積極的に送り出している。「輪筒」製作を一手に担っている職人の西宮誠さんは、とにかく大変だったと開発当時を振り返る。「輪筒は、それまでは誰もやったことのない技法でつくっています。昔からの伝統と、まったく新しいものがかけ合わさっているんです。商品化するまで時間も手間もかけ、何度もつくり直しました」

茶筒は通常、円柱の木型に経木を重ねて巻き、その上から樹皮を貼り合わせ、できた筒を本体(外芯、内芯)と蓋(外蓋、内蓋)にカットする。つまり、全パーツが一本の筒からできているのだ。ぴたりと蓋が閉まるのはこのため。「輪筒」がすごいのは、大胆にもこの大前提が覆されているところだ。表面にはヤマザクラのほか、クルミ、サクラ、カエデと、4種類の木を使っている。

本体と蓋は決まった一対なので、組み合わせがわかるように番号を振っておく。

「それぞれの木を貼った筒を、輪切りにしてばらし、組み上げる。ところが木の種類によって厚みが違うので、表面を平らに整えるのが大変です。そのうえ、本体と蓋の組み合わせは本来はオンリーワン。違うものを組み合わせると、ゆるかったりきつかったりするので、中を削ったり、反対に補強したりして、調整します」

しかもこれは一点ものや数量限定ではない。藤木伝四郎商店の定番なのだ。ひとつずつ微妙に違っているのを、ときには自作の道具を使いながら(何しろ世の中にない商品だから、専用の道具は販売されていない)、手作業でていねいに整えていく。カバの粉で手づくりしたパテで、小さな木の節をひとつずつ埋め、表面の凹凸をなくす。おかげで手触りがよくなり、鏡のように輝く光沢が生まれる。西宮さんならではの技だという蓋の上部のアールと相まって、じつに優雅なフォルムだ。職人の見えざる手間と心遣いに支えられた機能美を備えた道具だからこそ、極上の日常使いへと“昇華”する価値が生まれるのだろう。

藤木伝四郎商店本店
武家屋敷通りの近くにある江戸時代の蔵を改装したショップ。工芸品然としたものからモダンなものまで、バラエティ豊かなかば細工が揃う。
秋田県仙北市角館町下新町45
☎0187 -54 -1151
営業時間:10:00~17:00
定休日:水(12月~3月は水・日)

           
●情報は、FRaU2019年11月号発売時点のものです。
Photo:Manami Takahashi Text:Mick Nomura(photopicnic) Edit:Yuka Uchida