役を演じていない時の自分は、“無”です

自主的に始めた野球も、成長するにつれて“プロの壁”がどんどん立ちはだかってきた。どこかで「プロになるのはもう無理だ」と思っていても、そこは男の子。子供ながらに父親と張り合おうとしていたこともあり、「野球をやめてしまったら、自分の負けだ」という意地があった。

野球のことでは父からは全然褒めてもらえなかったし、僕自身も、理想と現実のギャップに苦しんで、素直になれなかった。中学生の時、『自分はもうプロにはなれない』ってきっぱり諦めた瞬間があって、その時に、テレビドラマを観て励まされたことで、俳優という職業に興味を持つようになったんです」

父親に認めてもらいたい。その一心で野球を続けていた少年は、「芝居で、たくさんの人の心を動かすことができたら、父親にも認めてもらえるんじゃないか」と思った。それが俳優を目指すきっかけの一つになった。

「今では、僕が出た映画は、必ず映画館まで足を運んで観てくれているみたいです。でも、『どうだった?』って聞くと、だいたい、『まだまだだな』って言われます(笑)」

なぜ自分はここにいるのか——。俳優になる前、彼は何度となくそう自問し、答えを見つけ出すことができなくて苦しんだ。俳優という肩書きを得て、未知なる役に出会えた時、自分がその役を演じる意味を見出すために役のことを考えて、考えて。最後にはいつも“心”だけが残った。毎回、自分自身は“無”になった。

家にいる時、ですか? 無です(笑)。ビッグバンの前の無、という感じ。頭を空っぽにして、ゲームをやったりする時もありますけど、最近では、一人で飲みに行って、そこにいるお客さんと仲良くなるのが楽しいです。いろんなことを質問して、その人たちの人生を知っていくと、『あ、だからこういう喋り方なのか』って腑に落ちたり。人間について、いろんな勉強ができる。

いつも、役のこととか、自分以外の人のことばかり考えているせいか、最近は、昔の自分のことを全然覚えていられなくて。昔の同級生とかに会って、『山ちゃん、あの時こう言ってたよね?』なんて言われても、『え? そんなこと言ってたっけ?』っていつも思う。たまには自分が何を言ったか確認しないと、過去の自分が透明になっていきそうで怖いレベルです(笑)」

世田谷パブリックシアター+エッチビィ 舞台『終わりのない
世界最古の文学の一つである「オデュッセイア」は、トロイア戦争の英雄オデュッセウスが、妻の待つ故郷への長い旅路の中、神々の嫉妬や助け、魔物との戦いを乗り越え帰還する物語。この大叙事詩の中で、歴史と神話は地続きに描かれ、人間と神々は同居している。この「オデュッセイア」を原典とした新作SFで、18歳の主人公・悠理は、宇宙船に乗って過去と未来を旅する。古代と未来の往還、日常と宇宙を繋げる旅の中で、人は何と出会うのか。
脚本・演出:前川知大 原典:ホメロス「オデュッセイア」 監修:野村萬斎 出演:山田裕貴 安井順平 浜田信也 盛隆二 森下創 大窪人衛 奈緒 清水葉月 村岡希美 仲村トオル

【日程】
東京公演:10月29日(火)〜11月17日(日)世田谷パブリックシアター
兵庫公演:11月23日(土・祝)・24日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
新潟公演:11月30日(土)りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
宮崎公演:12月4日(水)メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)
https://setagaya-pt.jp/performances/owarinonai20191011.html