NHK連続テレビ小説『なつぞら』で演じた、家業の和菓子屋を継がずに俳優を目指す小畑雪次郎役が、彼自身が辿ってきたストーリーと重なった。プロ野球選手だった父を持ち、中学3年まで野球を続けながら、プロになることを諦め俳優を目指した。

29歳、“カメレオン俳優”の称号をほしいままにする彼だが、この秋は、人気キャラクターを演じた映画『HiGH & LOW THE WORST』が公開される一方、古代ギリシャの叙事詩「オデュッセイア」を原典にした新作SF舞台に出演する。芝居に対する情熱は人一倍の彼が、一生をかけて鍛えたいものとは?

撮影/篠塚ようこ 取材・文/菊地陽子

ずっと、「自分はなぜここにいるのか」を
自問していた

山田裕貴/1990年9月18日生まれ。愛知県出身。2011年『海賊戦隊ゴーカイジャー』で俳優デビュー。その後、ドラマ、映画、舞台等で活躍。近年の主な出演作に『あゝ、荒野』『万引き家族』。ドラマでは『ホリデイラブ』『健康で文化的な最低限度の生活』。主演映画『あの頃、君を追いかけた』などがある。19年は、『大全力失踪』『特捜9 Season2』NHK連続テレビ小説『なつぞら』『HiGH&LOW THE WORST EPISODE.0』などとドラマ出演が続いた。映画『HiGH&LOW THE WORST』は現在公開中。公開待機作に映画『嘘八百 京町ロワイヤル』(2020年1月31日公開)がある。

「お疲れでしょう?」。撮影が始まろうとする時、何気なく、フォトグラファーが山田さんに声をかけた。この日は出演する舞台の取材日で、その前にもう何本もの取材を終えていた。なのに、彼は「僕、疲れたこと、ないんです」とさらりと言った。まるで、“疲れる”という概念を知らない人のように。

9年前、ドラマ『海賊戦隊ゴーカイジャー』で俳優デビューした。20代前半は、舞台装置の組み立てやチケットのもぎり、エキストラなどのアルバイトをしながら、オーディションを受ける日々が続いた。16年には主演した舞台『宮本武蔵(完全版)』が読売演劇大賞優秀作品賞を受賞。翌年の17年には、『おんな城主 直虎』で大河ドラマに初出演し、1年で14作の出演映画が公開される飛躍の年となった。そしてこの年、彼は、ある舞台作品と運命的な出会いをする。

舞台を観ながら、人目もはばからずに号泣してしまったんです。僕が、子供の頃からずっと一人で夢想していて、でも、誰にも話すことのできなかった“世界”がそこにあったから

彼が号泣した舞台とは、劇団「イキウメ」主宰の前川知大さんが作・演出を手がけた『散歩する侵略者』。黒沢清監督によって映画化もされたこの物語には、人間が持つ様々な“概念”を奪うことで地球を侵略しようと目論む宇宙人が登場する。“愛”という概念を持たない生命体が、日常の中に潜んでいるかもしれない恐怖——。概念にしか過ぎない“愛”が、でも人類を救うかもしれない希望——。あらゆる場面に心を揺さぶられた。

「“人間から、様々な概念を奪ったらどうなるか”なんて、日常生活の中で考えている人は滅多にいないと思うんです。目に見える世界とは違う世界があるかもしれないと思っている人でも、それを本気で信じているかどうかはまた別ですよね。でも、僕は小さい頃からずっと、“宇宙”とか“精神世界”に惹かれていたし、俳優になってからも、心のどこかで、『自分はなぜここにいるのか』を自問しているようなところがあった。だから、舞台の『散歩する侵略者』を観たときは、『あ、わかる!』の連続でした。観終わってから、前川さんと宇宙や、魂や、運命や概念の話、言葉がない世界の話とか、いろんな話がしてみたいと思いました」

舞台が終わった後、楽屋に挨拶に行き、自分がどんなに感動したかを興奮気味に伝えた。でも、そんな時でも彼は、「前川さんの舞台に出させてください!」とは言わなかった。なぜなら、“俳優とは、求められてこそ”という思いがあったからだ。