最大の難関はデコーヒレンス
技術的な問題を考察するときに、デコーヒレンス=「重ね合わせ状態の破壊」は極めて重要だ。
量子コンピュータは量子の重ね合わせ現象を利用するので、この状態をデコーヒレンスになるまで、計算に必要な時間だけ維持することが不可欠だが、それを実現するのがかなり難しい。
ちなみに「量子の重ね合わせ現象」とは、たとえば筆者の大原が、『2019年11月1日の正午に「渋谷にいる確率が50%」「六本木にいる確率が50%」であり、実際に確かめてみるまではどちらにいるのかわからない』というような摩訶不思議な現象である。
我々の日常生活ではありえない話だが、量子の世界ではこれが普通とされ、量子論が難解とされるのもそこに原因がある。
量子計算においては、電子、光子、中性子・陽子、その他の素粒子が使われるが、いずれも現在のところ重ね合わせ状態の維持が十分できない(光子は比較的ましな方である……)。
この重ね合わせ状態を維持できる量子の特定、あるいは手法の発見などが、デジタルコンピュータにおける「トランジスタ」、インターネットにおける「WWW」に相当するブレイクスル-になるはずだ。
さもなくば、いつまでも「実験段階での成功」というニュースを我々は延々と聞き続けることになるだろう。
残念ながら、現在のところ、ブレイクスルーの兆候はまったく見えない……。
★参考文献:竹内繁樹『量子コンピュータ 超並列計算のからくり』講談社ブルーバックス。(参照:筆者書評)