「膜」が世界を救う! 植物の真似をして地球温暖化を逆転させる方法

CO2回収技術変革への道
清水 修, ブルーバックス編集部

「動画の中に4段に重なった丸いものが見えますね。これは巨大なファンなのです。大量の吸収液を霧状に噴射して、その横から大型ファンで風を当ててCO2を吸収させていくというやり方ですね。

つまり、この3社のやり方だと、大規模施設が必要で、溶液に使う大量の水が必要で、さらに稼働するためのエネルギーが必要になる。コストとしては1tあたり3万円くらい。こんなに大掛かりにしなきゃできないのですから、やっぱり前述の方法C(膜分離)を実現させたほうがより効率的なわけですね」

膜分離システムのフレキシビリティ

しかし、現在のところ、膜分離でDACを進めるプロジェクトは世界中いまだどこにも存在していない。なぜなら、従来の膜ではCO2が透過するために相当な加圧をしなければならなかったからである。

このためには、分離するガス中のCO2濃度が高いほうが有利であり、空気中のCO2濃度は低すぎて、分離が不可能と思われていた。

しかし、藤川准教授が作成した自立ナノ膜は従来のものとは違う。1気圧の「CO2がわずか0.1%しか含まれていない窒素ガス」を分離膜に流してやると、CO2の半分を捕えられる。これは従来のCO2膜分離の常識を覆す大きな成果である。

つまり、膜を薄くしていけば、いままでは無理だと思っていたことができるようになるということだ。

「すでに始まっているDACのプロジェクトはいずれも大規模な溶液吸収装置であると言いましたが、膜を使えば、あんなに大規模な設備はいらないのです。

小さい膜をたくさん作って、エアコンの室外機のようにそれぞれの家庭に設置すればよいのです。それなら、狭い日本でも、CO2回収装置をたくさん作ることができますよね。

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これに似たシステムが、太陽光パネルです。太陽光パネルは、場所に応じて大きくも小さくもできます。これと同じように、CO2分離膜も、大規模でできるところは大規模に、家庭用ならば家庭向けに、と必要に応じてサイズを調整できます。このフレキシビリティは、あちこちでCO2回収を進めるうえで重要になってきます」

なるほど。膜を使えば、かなり自由に装置を設計できる。それならどこでも実現できそうだ。にわかにリアリティが出てきたではないか。

植物を手本にする、夢のCO2回収システム

「世界的な傾向として『膜によるCO2回収はかなり突飛な発想だ』と思われている節があります。でもね、膜を使うことは突飛ではないのですよ。なぜなら、身近に実例があるからです。

それは何かというと……植物です。細胞膜を手本にナノ膜を作ったさきほどの話と同様にバイオミメティクス(Biomimetics:生物模倣技術)の発想で、植物を手本にシステムを創り出していけば良いと思うのです。

植物はポンプも何も使わずに、葉っぱを通じて空気中から自然にCO2を吸収しますよね。原理はあれと同じです。したがって、膜を使ってCO2を大気中から回収するシステムは実現可能だと思っています。

さらに、植物というのは炭素源を大気中のCO2から獲得しています。なんとなく根っこから吸い上げているようなイメージがありますが、大気から取り入れている。

つまり、植物のように大気からCO2を回収して、それを炭素資源として転化(コンバージョン)する技術を持てば、エネルギーを生産できることになります。

そしてもうひとつ。植物は回収したCO2と水で光合成をしてショ糖やデンプンを作ります。同様の転化技術を開発すれば、回収したCO2を使って、ある種の食料さえ生産できるようになる。それらがすべて実現した世界を想像してみてください」

たしかに、実現できたらすごい話だ! CO2を無理なく低コストで回収し、捕まえたCO2からエネルギーを生み出し、食料さえも作れるとなれば、地球温暖化問題を解決できるばかりでなく、資源の取り合いに端を発する戦争なんてなくなってしまうはずだ。

膜は世界を救う

もちろん、これらの話は、現段階で夢物語ではある。が、もし将来、それらがひとつずつ実現していったならば、世界の様相はがらりと変わることだろう。

「そうなのです。そんな夢物語も、すべて『膜』から始まるのですよ」

まさに……膜は世界を救う。

近い将来、それが実現されることを信じて、先端エネルギー科学者はどこまでも膜分離社会実装への道を歩み続けていくことだろう。
(2019年9月18日。九州大学藤川研究室にて)

取材協力・協賛:
世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)
九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(WPI-I²CNER)

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