異例のスピード承認の背景

この要望書からわずか1ヵ月あまりの10月8日。厚労省はアラガン・ジャパンに対し、代替品として、新たな人工乳房など2製品(「ナトレル 133s ティッシュ・エキスパンダー」「ナトレル ブレスト・インプラント(インスパイラ)」を承認。さらにその8日後、10月16日には保険適用が承認されたのです。

通常数ヵ月~1年、あるいはそれ以上かかると言われている審査を約1ヵ月で済ませるスピード承認。「乳がんを経験し、その経験からひとりでも乳がんで苦しむ人を減らしたい」と活動を続ける女性たちの声が届いたかたちとなりました。新たな人工乳房は、早ければ11月上旬に全国の医療機関のもとに届けられます。

ただ、今回承認された代替品は、表面がツルツルに加工されたスムースタイプのゲル充塡(じゅうてん)人工乳房と、乳房再建手術時に周辺の皮膚を広げる拡張器(ティッシュ・エキスパンダー)の2製品でした。

ただ、問題は、まだいくつも残されている――。そう前出の真水さんは言います。

「今回代替品として承認されたスムースタイプの人工乳房は、術後5年から10年で皮膜拘縮(ひまくこうしゅく/人工乳房周囲の痛みや変形)※3を起こす可能性が大きいと言われ、入れ替えのための再手術を行う可能性が高い製品と言われています。

回収された人工乳房は、表面がザラザラのテクスチャードタイプと言われるもので、スムースタイプよりも使いやすさから言えば、一歩進んだ製品でした。

また、乳房の形も日本人に合ったアナトミカル(しずく形状)ではなく、欧米人に多いと言われるラウンド型(乳房中央にボリュームがある)です。代替品として承認された拡張器(ティッシュ・エキスパンダー)は、アナトミカル(しずく形状)であるため、入れ替えする人工乳房とは形が違っています。

乳房再建手術は、患者にとって身体的・経済的負担が少なく、かつ安全に手術を受けられる環境が必要であることは当然のことですが、形成外科医療のめざす“整容性”についても可能な限り確保されることが、患者が不安なく、心の安定のもとに乳がん治療に臨んでいくうえで極めて大切だと思っています。

今回のスピード承認は、大変喜ぶべきことですが、ほかにもまだ承認されていない患者のメリットが高い製品の選択肢はあります。入れ替え手術などメンテナンスが大変でなく、日本女性の乳房に合った整容性に優れた製品の承認を引き続き、検討いただきたいと思います」

※3 皮膜拘縮(ひまくこうしゅく)…人工乳房(ブレスト・インプラント)は、人体にとって異物であるため、挿入してしばらくたつとインプラントの周りに皮膜という薄い膜のようなものができてくる。放置するとこの皮膜はだんだん硬く締まって痛む合併症が起こるため、適切な形で入っていたインプラントが数年後、変形してしまうことがあり、入れ替え手術が必要になる。自主回収されたテクスチャードタイプは、皮膜拘縮は起こりにくいとされているが、今回承認されたスムースタイプは皮膜拘縮を起こしやすいと言われている