とある東戸塚の洋食店が「15年も愛され続けるワケ」

ロビンソン酒場を往く⑧
加藤 ジャンプ プロフィール

家族で入りやすい

この店のもう一つの強みは、家族が一緒に来られることである。品揃えは、ハンバーグ(これがまた、にくらしいほど旨い)や鳥のグリルなどをご飯と一緒に食べられる。

ある日訪れると、休日の子どものスポーツ活動の帰りに立ち寄ったと見られる家族連れが来て、めいめいが定食感覚でこうしたメニューを注文して食べていた。元から暮らす高齢層と新たなファミリー層が混在する土地で、どちらも視野にいれた経営をしている。

さらに驚いたのは、いつ行っても、ほとんどの客が何も残さないことである。飲食店にとって残飯はコスト管理からいっても頭の痛い問題である。しかし、智弘さんも認める事実として、この店は食品廃棄率はきわめて低い。だからといって、量的には満足させていることは、リピート客が多いことからも自明だ。

 

客が料理を残さないワケ

単純にいえば旨いからだが、適量を提供し、適量を仕込んでいる。さらには、
「お客さんが飲んでいるお酒の量などもいつも見計らって、味も調整します」

と智弘さんはあっさりと言うが、そうした細かな仕事の結果が、誰も残さない店にしているのである。料理は一切作り置きはせず、ランチのパスタも注文を受けてから茹でる。そして料理は基本的に智弘さんが一人で担っているので、それなりに時間を要することもある。そのうえで、誰も、残さないのである。

さて、ここの小皿は食欲を増進させる。一人客なのに、ボトルを注文し、ちょっと相談すると、唐揚げを出してくれることになった。メニューには常時ないが黒板にあれば頼める逸品は、柚子胡椒なども隠し味にしている。

柚子胡椒が隠し味の唐揚げ

これが、そこらの唐揚げ屋が食べたら転職を決意させるほどの快作なのである。そして、面白いことに、柚子胡椒まで使っているのに、明確に洋食の雰囲気を残している。香り、盛り付け、味のベース。それが相まって、日本的なのにあくまで洋食たる唐揚げなのだ。

なにを食べても洋食の雰囲気がきちんとそなわっていること。これが洋食店にとっては存外大事で、その店の筋というか背骨のようなものがきちんとしている証である。

まったくの和物を出した時点でその店は、何でも屋になる。何でも屋の客はたいてい、何でも要求する客であり、飲食店にとって好ましからざることは言うまでもない。