とある東戸塚の洋食店が「15年も愛され続けるワケ」

ロビンソン酒場を往く⑧
加藤 ジャンプ プロフィール

ロビンソン酒場とは

駅からも繁華街からも遠い場所にありながら愛されている酒場をロビンソン酒場と私は呼んでいる。利便性と効率が重んじられる今、「なぜ、ここで?」と誰もが思う場所にあるのに栄えているのには理由があって、金儲けに直結した利便性と効率とは質が異なる、疑いのない合理性がある。

ロビンソン・クルーソーが孤島で生き延びたような、限られたリソースを最大限に使った知恵の賜物が、ロビンソン酒場にはあるのだ。ちなみに、ロビンソン・クルーソーは孤島には28年間滞在した。小野田寛郎がルバング島にいたより期間より1年ばかり短い。

それにしても、この店、結構なロビンソン加減なのである。距離以上に遠い感じがする。ただ、それを乗り越える価値がある。

 

暗がりに現れるほのかな明かり

東戸塚駅周辺は、80年代から開発が進み、今は百貨店を中心に大規模なショッピングセンターが駅前にでき、それを中心に駅前に早くから高層マンションが立ち並ぶようになった。一方で駅近くにはいまだに牧場があったり、すこし歩けば里山が見られたり、新旧のニッポンを一緒に鍋で煮たような場所でもある。

店に辿りつくまでの道も、駅を出て横須賀線のガードをくぐると、それまでの街の明かりはなくなり、いきなり、住宅の窓から漏れる光と街頭と車のヘッドライトのみになる。やがて、横浜横須賀道路のガードをくぐると、さらに街らしき明かりは減り、遠方には里山らしき陰が見えるようになる。

そうして歩き続け、10分を超えるころ、ほのかな明かりが見えてくる。それが、東戸塚のロビンソン酒場ビバーチェである。

その名のとおり赤提灯や縄暖簾の店ではない。イタリア語の音楽用語で“生き生きと”という意味が店名になっているくらいだから、イタリアンをベースにした洋食の店である。

だから、ガラスのドアを開けたときの「いらっしゃいませ」は弾けるような居酒屋トーンでも、頑固オヤジの絞り出すような濁声でもなく、洋食屋さんの、ほどよい音量と圧で客をつつむ。