なぜ春画の魅力は、これほどまでにわれわれを惹きつけるのか?

生の春画が持つ「インパクト」の強さ
石上 阿希 プロフィール

また、明治に入ってすぐに春画・艶本の売買が条例や法律によって禁止され、明治末には大規模な取締が行われたことや、出版に規制がかかるなかで研究書を出版し続けた研究者たちがいたこと、しかし昭和36年(1961)には裁判にまでなった事例を挙げ、それらを乗り越えて無修正の春画出版が行われたことなどを提示した。

 

ただし、実際のところセカンドライフは一般にあまり馴染みのない仮想空間ということもあり、残念ながら反響はほとんどなかった。人目に触れる機会が限られていることに加え、そこで見ることができる「春画」はデジタル資料ということもあったのかもしれない。そう、2014年当時は出版はもちろんのこと、国内外の大学・研究所・博物館のデータベース上でも春画を閲覧することは可能となっていた。

展覧会の意義は様々あるが、第一はやはり「本物」と相対することができることであり、その点が欠けたバーチャル春画展が大きな「インパクト」を与えることは難しかったのだろう。

本物の春画が、見た者に与える「インパクト」

百聞は一見にしかず。本物が持つ力は高精細な画像や研究者による解説とはまた異なる作用をもたらし、人を惹きつける。

例えば、鳥居清長の「袖の巻」という春画がある。大英春画展のキービジュアルともなった名品である。「柱絵判」と呼ばれるフォーマットで、通常は柱に貼って楽しむ縦長の絵なのだが、これを90度回転させて横長にし、そこに横たわる男女を描いた。

2013年大英博物館春画展(筆者撮影)

大胆に上下をトリミングし、男女の会話や背景など余計な要素を極力排除することで、そこに流れる男女の空気や感情の揺れを見る者に読み取らせる。もちろん、清長の冴え渡る筆だけではなく、その線を最大限に活かした彫、細かな質感まで感じさせる摺、それらを支える上質な材料が重なり合って1つの絵を成している。

この作品を大英の展覧会場で目にしたある人物は、その美しさと摺・彫の技術に心を動かされ、現代の浮世絵職人と共に「袖の巻」に挑むことを決意する。東京伝統木版画工芸協同組合の理事長・高橋由貴子氏である。

しかし、このプロジェクトも組合にすんなりと了承されたわけではなかった。高橋氏は数年来に亘って春画の復刻を提案し続け、時宜を得てようやく2016年よりスタートさせることができた。

浮世絵職人の視点から眺めてみると

さて、実際に復刻を進めるとなるとその精度を高めるために、実物との比較が必要不可欠であったが、幸いなことに大英春画展に出展されていたのは国際日本文化研究センター(日文研)が所蔵する資料であった。2015年より日文研で働いていた私は、高橋氏の求めに応じ、東京と京都の職人たちに「袖の巻」を披見してもらったが、これは私にとっても貴重な機会であった。