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なぜ春画の魅力は、これほどまでにわれわれを惹きつけるのか?

生の春画が持つ「インパクト」の強さ
文化記録映画「春画と日本人」が各地で話題となっている。2015年にとある私立美術館で行われ、大盛況だった春画展を追うドキュメンタリー作品だ。なぜ人々は春画に惹かれるのだろうか? 制作に携わった春画研究者が、その魅力とインパクトについて語った。
「春画と日本人」大墻敦監督によるエッセイはこちら
 

春画展のために研究者ができること

ご存じの通り、2013年に大英博物館で開催された春画展「Shunga: sex and pleasure in Japanese art」(以下「大英春画展」)は大成功の内に幕を閉じた。この展覧会のプロジェクトキュレイターを務めていた私は2011年から1年半ほど大英博物館で準備に奔走し、2012年からは立命館大学の専門研究員として引き続き春画展に携わっていた。

イギリスでの成功とは裏腹に、この展覧会を引き受ける日本の―正確に言えば東京の―博物館・美術館は見つからなかった。この交渉にあたっていたのが、大英春画展のスポンサーでもあった淺木正勝氏、浦上満氏である。大春画展が閉幕したことで巡回展は諦めざるを得なかったが、両氏は春画展日本開催実行委員会を立ち上げ、大英春画展を引き継ぎつつも日本独自の新しい春画展を目指して交渉を続けていた。

では、研究者として私が出来ることは何だろうか。1つは、「春画」が日本美術界や日本社会にとっていつ、どのように「タブー」となったのか。対して春画が制作されていた当時の社会ではどのように楽しまれていたのか。その享受史の変遷を明らかにすること。

バーチャル展示空間で春画を鑑賞する

もう1つは、その研究成果を発信することだった。リアルな社会において春画展の開催が難しいのなら、いっそ地理的境界線のない仮想空間で春画享受史をテーマとした春画展をオープンさせよう。そこで2014年に企画したのがバーチャル展示「春画を見る、艶本を読む」である(現在は改装中。なお、この展覧会はオンライン展示版でもみることが可能である)。

当時の受入教員であった細井浩一教授は、アメリカ・リンデンラボ社が運営する仮想世界「セカンドライフ」内にある立命館大学の敷地内に能楽堂や神社などを構築し、そこでの研究活動・情報収集を行っていた。そこに蔵を2つほど建ててもらい、アバターの年齢制限を設けて春画展をスタートさせたのである。

展覧会では、享保7年(1722)の出版条目発布以降、公に出版することが出来なくなった春画・艶本が「貸本屋」という読者に個別に本を届ける本屋を介して多くの人々に読まれていた様子や、絵師たちが隠号を使って正体を暗示しながら春画・艶本を制作し続けたことを紹介した。