サステナブルライフにつながる日本の活動を紹介するこの連載。今回は、障がいのある人のやりがいと居場所を求めて焼き菓子を製造販売している〈ブルチェロ〉を紹介します。

障がいのある人と共に
おいしい焼き菓子を届けたい

焼き菓子は、常に20種類ほど作っている。いちばん人気は、パリパリと薄く焼きあげたアーモンドクッキーだそう。事業所の運営費は川崎市からの補助金で賄われているが、焼き菓子の売り上げはメンバーたちの工賃となる。「スタッフは誰もイタリアに行ったことはないけれど、イタリアの本格的な焼き菓子を目指しています」と、職員の藤井ひとみさん。

「友人にもらったイタリア菓子がおいしかったから製造元を調べてみたら、障害者支援事業所だった」という話を聞いた。それがブルチェロである。ビスコッティやカネストレッリといったイタリア焼き菓子は、国産の材料を使い、添加物は不使用で、一つ一つ手作りされている。

クッキーの型抜きや袋詰めといったすべての作業を、一つ一つ丁寧に手作業で行っている。

焼き菓子店ブルチェロの母体となっているのは、社会福祉法人あおぞら共生会だ。約30年前、障がい児の親たちが中心となって始めたボランティア団体が前身で、さまざまな取り組みをしてきた。障がい者たちがものを作り、売るというシンプルな事業を通して、新たな喜びと、工賃を確保できる拠点を得るための日中活動の場として、6年前に開設した地域活動支援センターがブルチェロである。あおぞらをイタリア語にした店名をつけ、ちょっと珍しいものをと考えてイタリアの焼き菓子をテーマにした。

「メンバーは主に、知的障がい者です。一概には言えませんが、突発的なことに対応することは難しくても、一度覚えた作業は真面目に丁寧にできる人が多い。単純作業を厭わずにできる人が多いんですね」と、サポート職員の相澤暢子さん。障がい者が作っているからといって、価格をつけて販売しているのだから、きちんと完成度を高めていくことを日々、意識しているそうだ。そこには、「感動やワクワク感のある焼き菓子のおいしさを、障害のある人たちと共に届けたい」という思いが込められている。

「ものを作り、売ることを通じて、やりがいや喜びを提供する。可能性を発見していく」という方針で支援活動をしている。自分たちの役割を感じることで、人や地域と関わりが生まれていく。誰しも居場所がなければ、生きる喜びを見出すことは難しい。白と青を基調としたデザインのユニフォームを身につけて作業場に入れば、みんな仕事モードに切り替わっている。「私語もなくなり、きりっとした表情になります」

ここでの作業はお菓子製造だけではない。毎朝、新鮮な卵を買いに行く。ユニフォームをクリーニングショップに持っていく。前日の売り上げを銀行に入金する。そんなさまざまな仕事を覚え、1人で担当する。

「障がいがあっても、できることはいろいろあるはずなんです。ただ、経験が少ない人が多い。職員がメンバーの得意不得意を見極めて、サポートしていくことで、1人でできることが増えていきます」と相澤さん。失敗は許されないため、職員はメンバーの作業を常に確認することが仕事でもある。

例えば、材料を量る前に計量器のメモリが0になっているかどうか。爪は切ってあるかどうか。「ユニフォームの帽子とマスクが、どうしても苦手だというメンバーもいます。でもそれが苦手だと訴えることができない。ただ納得できないことはやらない。そんな人にも、根気強く必要性を伝えて覚えてもらいます。一方で朝が苦手だという人がいれば、それは無理強いしません。午後に来て参加すればいい。それぞれの個性に合わせることで、働きやすいようにサポートしています」。

ときには近隣の会社や高校の文化祭、地域のイベントなどへ出張販売に出向くこともある。接客作業には臨機応変な対応が求められることもあって、緊張するけれど、とても楽しんでいるそうだ。「お客さんの反応が直接伝わってくるから、やりがいを感じています。『私が作りました!』と薦めたり、『完売しました!』とうれしそうに報告したりしています」

障がいのある人たちが、人や地域との結びつきや関わりを持ちながら、自立して生活できるように。どんな方法が正解なのかはきっと誰にもわからないけれど、共に生きることをみんなで選択できたらいい。そのためにおいしい焼き菓子を食べ、身近なこととして意識を向けてみるという方法もある。

ブルチェロ
神奈川県川崎市川崎区渡田山王町15-8-102 湘南ビル
☎044-366-2291
営業時間:9:00~17:00
定休日:土・日・祝・年末・年始・夏季休業あり

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Photo:Koichi Tanoue Text:Shiori Fujii