東電社員は見た…「賠償金詐欺」恐ろしき「恫喝の現場」

指のない「被災者」が現れて…
高木 瑞穂 プロフィール

「なんとか通してくれ」

賠償審査はそうして、半ばなし崩し的に緩くなっていった。歯車が狂い始めたこの状況を岩崎は、こう指摘する。

「風評被害があったか否かを判断するため、決算書など資料の足りない部分をどこまで他の資料で補うかが問題になっていましたが、請求書が滞留するなか、デロイトの判断もあってその審査条件がどんどん緩くなった。作業を流すべく、被災状況についてのエビデンスを『拡大解釈』で処理していくようになったのです。

原賠機構に『賠償しなければカネを貸さない』と言われている東電にとって、デロイトは大切な指南役です。原賠機構が東電の命綱であるとともに、賠償業務が素人同然の東電にとってはデロイトが生命線。それは私たち末端の賠償係でも手に取るように分かりました。東電もデロイトも、口には出さないまでも審査は『ザルでいい』との意向だったのです。

要は、いかにして支払いの滞留を解消するか。なのでデロイトも、審査を簡易化できるフローを作ったりだとか、会計士を増やしたりだとか、様々な策を講じていました。『17時までに5通、審査を通してくれ』とノルマを課すことなどもありました。なので、エビデンスは足りないけど、請求者に『電話で足りない書類の確認したからOK』という具合に、なあなあで審査を進めるしかありませんでした」

とにかくノルマをクリアするため、審査を通すことありきでものごとが進んでいったのだ。

 

震災の傷跡が色濃くのこる被災地から、続々と新たな請求書が届き始めたのは、震災から1年になろうとする2012年1月後半のことだった。

これまで様子見をしていた被災者が、先行して請求した被災者に多額の賠償金が支払われた噂を聞きつけ、駆け込んだのだ。東電としては、避難区域内で商売をしていたというだけで支払わざるを得ない状況だった。もちろん請求者の多くは、本当に被災し、原発によって深刻な被害を受けた人だっただろう。しかし同時に、明確に営業実態がある法人だけではなく、有象無象が現れて、東電に「賠償せよ」と迫ったのである。