東電社員は見た…「賠償金詐欺」恐ろしき「恫喝の現場」

指のない「被災者」が現れて…
高木 瑞穂 プロフィール

杜撰になっていく「審査」

2011年、震災の直後に賠償係が設立されるにあたり、その職に自ら志願した岩崎は、「補償運営センター・産業補償受付第九グループ」に配属された。賠償係は被災状況の「審査」を行い、賠償金額を請求者に提示するまでが仕事になる。

原子力損害賠償についてのスキルを持ち合わせていない東電上層部に代わり、業務を指南する役目を仰せつかっていたのが、デロイトトーマツコンサルティング(以下、デロイト)の面々だ。賠償業務は、この民間のコンサルタント会社にほとんど丸投げする形で進められた。

 

賠償係としての岩崎の主な業務は、請求書のチェックと“架電”だった。架電とは、被災状況のエビデンスを確かなものにするために、資料の不備などによってハッキリしない被災状況を、被災者に電話で尋ねることだ。「津波の影響ではなく原発事故による影響かどうか」「事業継続や再開の意思」などを、電話で確認する。

架電は最も困難な業務とされていた。なかでも、請求者に賠償金が支払われないことを伝える“支払い対象外”の宣告は、相手を強く刺激した。警戒区域内の被災者は、自宅や会社に戻れないことで、現実問題として資料を揃えづらい状況にある。さらに、当然ながら被害者としての意識は強い。よく“お叱り”を受けた。

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被災者の批判の根底にあるのは、東電が加害者であるという現実だ。当時、東電はすでにメルトダウンを認めていた。

こうした状況から、一部ではあるが申請者のなかに、ある「認識」が生まれる。東電は加害者なので、いくらゴネてもデメリットはない、水増し請求をしても聞き入れざるを得ないだろう、という認識だ。震災は、発生当初は日本全体が被害者として捉えられていた。しかし被災者からすれば、東電を被害者として見ることなどできなかった。

いきおい、東電の審査は徐々に緩く、杜撰になっていった。

「(資料が不備であっても)これ以上は聞けないよね」

東電としては、そうした思いを抱かざるを得ず、たとえ証拠が不十分であっても審査を終わらせるしか術がない。デロイトもまた、それを許した。

最終的には被害状況を聞いたことにして、賠償係が「被害状況を聞いた」「(被害は原発のせいであり)津波じゃないことが確認できた」と記入することで審査を円滑に進めることになった。何か書いてあればいい、津波での被害じゃないことが分かればいい、という杜撰さだったのだ。