視力6000! 世界が協力して作り上げた最強の「目」の秘密

アルマ望遠鏡は宇宙に何を見るか
平松 正顕 プロフィール

しかし、アンテナをむやみに広い範囲に置いて解像度を上げられるだけ上げればよい、というわけでもありません。望遠鏡にも顕微鏡にも共通することですが、倍率を上げると視野の中が暗くなってしまい、明るい物しか見えなくなってしまうからです。

ブラックホールの周囲にある物質は数十億度という超高温で、大変強い電波を出しています。その強度のおかげで、地球サイズの干渉計でも写真を撮ることができました。しかし、原始惑星系円盤はそんなに明るくありません。地球サイズの干渉計では、惑星系の誕生現場は暗すぎて見えないのです。

アルマ望遠鏡は、66台のアンテナを差し渡しで最大16kmの範囲に展開し、山手線サイズの干渉計を構成します。これによって得られる解像度は、人間の視力「6000」に相当します。

アルマ望遠鏡のアンテナ群。写っているのは中央部の500mほどの範囲 Photo by Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com) / ESO
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みなさんが受ける視力検査は「1.5」や「0.3」という数字で結果が示されますが、アルマ望遠鏡に同じ検査を受けさせれば6000という値をはじき出すのです。これは、大阪に落ちている1円玉の大きさが東京から見て判別できる視力に相当します。

このけたはずれの視力によって、非常に遠くにある天体を詳しく観測することができるのです。

宇宙の分子をとらえる

アルマ望遠鏡は従来の電波望遠鏡に比べると、解像度だけではなく感度も大きく向上しています。つまり、弱い電波までキャッチできるということです。

 

これによってたとえば、従来の望遠鏡では検出できなかった微量の分子が放つ電波までもとらえることができます。

アルマ望遠鏡は、星や惑星の材料となるガスにさまざまな有機分子が含まれていることを明らかにしています。メタノールのようなアルコール分子や、ごく単純な糖類分子も検出されました。私たちの体の基本的な構成要素であるアミノ酸の材料になりうる物質も発見されています。

Photo by ESO / L. Calçada & NASA / JPL-Caltech/WISE Team, NASA / JPL-Caltech / WISE Team
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生命の材料が宇宙にあるのかどうか。これは天文学の世界でも大きな関心事で、アルマ望遠鏡を使って宇宙にあるアミノ酸を検出しようと、多くの研究者がもくろんでいるのです。

さらにアルマ望遠鏡は、132億8000万光年彼方にある酸素イオンが放つ電波をとらえることにも成功しました。電波は光と同じく秒速30万kmで進みますから、この発見は、132億8000万年前(ビッグバンが起きてから約5億年後)の宇宙に酸素が存在していたことを示しています。

これほど昔に発せられた電波をキャッチするためにも、高い感度が必要でした。

アルマ望遠鏡がキャッチした酸素からの電波を緑色で合成 Photo by ALMA (ESO / NAOJ / NRAO), NASA / ESA Hubble Space Telescope, W. Zheng (JHU), M. Postman (STScI), the CLASH Team, Hashimoto et al.
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国際協力で切り拓く、新しい天文学

高い感度と解像度を併せ持つアルマ望遠鏡は、たいへん大規模な観測施設です。南米チリ北部・標高5000mの高原に設置された66台のパラボラアンテナの中には、異なる周波数の電波をとらえる〈受信機〉が8つずつ搭載されています。

山手線大の範囲に分散するアンテナ群で得られた信号は、光ファイバーで1ヵ所に集められ、高速計算が可能な専用スーパーコンピュータで処理されます。望遠鏡の操作は、標高2900mに設置された「山麓施設」から遠隔でおこなわれ、ここには望遠鏡や施設のメンテナンスをする多くのスタッフを含めて100人以上が常駐しています。